【バイオインフォマティクス×企業】さまざまな分野で需要が拡大!

「バイオインフォマティクス」とは、「バイオ(生物学)」と「インフォマティクス(情報学)」を組み合わせた学問で、生命現象をコンピューターを使って解析・研究する最先端の領域です。

バイオインフォマティクスの技術者は「バイオインフォマティシャン」と呼ばれ、生物学と情報学両分野の研究技術について理解し、活用できる高いスキルが求められます。

現在、バイオインフォマティシャンの需要は、創薬や医療などさまざまな分野で拡大しています。この記事ではバイオインフォマティシャンの現状や就職先、研究内容、求められるスキルについて解説します。

バイオインフォマティシャンとしての就職を考えている人は、ぜひ参考にしてみてください。

監修者プロフィール

福山篤史氏
日本総合研究所 創発戦略センター コンサルタント「微生物によるバイオプラスチック生産」を対象とした研究開発の経験を活かし、現職では、政府機関・民間企業に対するバイオテクノロジー・バイオマス由来製品の実装に向けた戦略策定支援、カーボンリサイクル/CCU(Carbon Capture and Utilization)技術の実装に向けた産官学連携のコンソーシアムの企画・運営を担当。著書に「図解よくわかる スマート水産業 デジタル技術が切り拓く水産ビジネス(共著)」「図解よくわかる フードテック入門(共著)」(日刊工業新聞社)。
福山篤史氏

バイオインフォマティシャンの需要拡大と課題

世界のバイオインフォマティクス市場は、創薬や個別化医療などの急速な発展にも後押しされ、大幅な規模拡大が見込まれています。2022年に114億米ドル(約1兆6,618億円)に達した市場規模はさらに成長し、2030年には291億米ドル(約4兆2,417億円)まで達する見込みです 。

ゲノム解析によって大量のデータが生み出されるようになり、バイオインフォマティクスは急速に発展しました。それに伴い、日本でもバイオインフォマティシャンの需要は各分野で拡大しています。その一方、高いスキルを求められるバイオインフォマティシャン人材は不足しており、育成が課題になっています。

これらの課題に対する取り組みの一例に、「バイオインフォマティクス技術者認定試験」があります。この試験の目的は、バイオインフォマティシャンとして基礎から先端までの知識を有し、関連業務への適性が一定レベルに達した人材であることを認定することです。文部科学省が後援していることから、「バイオインフォマティシャンの育成は国を挙げての取り組み」と言えるでしょう。

以下では、各分野におけるバイオインフォマティシャンの研究内容、求められるスキルについて紹介します。

様々な分野に役立つスキル

製薬・創薬系企業でのバイオインフォマティシャンの役割

製薬・創薬×バイオインフォマティクス
従来、製薬・創薬企業では、生物などの細胞を実際に取り扱う「生物学的実験(ウェット/Wet)」がメインでした。
しかし2000年以降、次世代シーケンサーの発展により大量のゲノムデータが一度に解析可能になり「コンピューターを使った情報解析(ドライ/Dry)」が脚光を浴びるようになっています。

そういった背景もあり、近年、製薬・創薬企業においてもバイオインフォマティシャンの需要は高まっています。

【関連記事】
ウェット(Wet)とドライ(Dry)の融合がバイオインフォマティクスにおける最適解?

製薬・創薬系での企業例1.創薬ベンチャー

通常、新しい医薬品を創り出すまでには10年以上 の長い年月がかかると言われています。バイオインフォマティシャンによるビックデータの活用や分析により、長期間にわたる創薬プロセスの効率化・高速化が期待できます。

研究内容
医薬品の研究・開発
研究スキル例
mRNA標的創薬に必要なバイオインフォマティクスによる標的探索、ケモインフォマティクス(量子化学計算)による医薬品のドラッグデザイン

製薬・創薬系での企業例2.製薬会社

創薬同様、ワクチン開発も通常10年はかかるとされるなど長い期間を要します。バイオインフォマティクス技術により多くの情報を活用し、製造プロセスの最適化を図ります。

研究内容
ワクチンの研究開発
研究スキル例
バイオインフォマティクスを活用したワクチン抗原デザインの研究戦略立案や遂行、病原体のゲノム解析からワクチンの標的抗原を選定し上市品の土台創り

医療系企業でのバイオインフォマティシャンの役割

医療×バイオインフォマティクス
医療系企業や医療機関においてもバイオインフォマティシャンの需要は高まっています。
その背景には、患者のDNA情報を解析し、各人にとって最適な治療法や医薬品を選定する「個別化医療」のニーズ拡大などがあります。

医療系での企業例1.製薬会社

がん細胞の全ゲノム情報を解析し、がんを発病させる遺伝子を特定することで、より効果的で精度の高いがん治療法の開発を目指します。データ解析は、電子カルテシステムと連携したビッグデータ活用においても欠かせません。

研究内容
個別化医療研究(プレシジョン・メディシン)
研究スキル例
がん患者の腫瘍組織からDNAやRNAを抽出、膨大な遺伝情報の解析

医療系での企業例2.バイオベンチャー

病気やけがで機能不全になった組織や臓器を再生させる「再生医療」。従来では効果が得られなかった病気やけがに対する新たな治療法として注目されており、バイオインフォマティクス技術も活用されています。

研究内容
再生医療研究
研究スキル例
次世代シークエンス技術を活用した新規再生誘導医薬の評価、新規再生誘導医薬の標的探索

医療系での企業例3.ITサービスソリューション

ITサービスソリューションを提供する企業も、ヘルスケア領域の新規サービスの研究開発に取り組んでいます。医療・ヘルスケア領域のデータを解析する手段として、バイオインフォマティクス技術が活用されています。

研究内容
予防医療、新規サービス研究開発
研究スキル例
医療やヘルスケア領域のビッグデータを解析、将来発生する可能性がある疾患リスクや現在の体の状態を予測すること目的とした数理アルゴリズム開発、コホート研究より取得した臨床情報などを利用したバイオマーカーの探索、疾患発症予測モデルの作成

食品・農業系企業でのバイオインフォマティシャンの役割

食品×バイオインフォマティクス
近年、注目されている「機能性食品」の開発や効率的な食糧生産のため、食品・農業系分野でも、バイオインフォマティクス技術が活用されはじめています。

食品・農業系企業例1.食品メーカー

原材料の遺伝子情報を、バイオインフォマティクス技術を用いて解析します。

研究内容
原材料の解析業務
研究スキル例
原料植物のバイオインフォマティクス解析(ゲノム解析、GWAS、RNA-SEQ、統計解析全般)

食品・農業系企業例2.アグリテック系ベンチャー企業

バイオインフォマティクス技術により産地に関するデータなどを解析し、収穫量や品質の向上、営農支援などに取り組みます。

研究内容
スマート農業
研究スキル例
農業領域のビックデータを解析、バイオロジクスデータの管理基盤の検討、植物生理作用の評価技術の新規開発

まとめ

テクノロジーの発達に伴って、バイオインフォマティシャンの需要も急速に拡大中です。創薬や医療、食品、農業などの各分野で事業展開する企業において、データ解析ができる人材が求められています。

一方、一定以上のレベルで専門性を発揮するには生物学と情報学に精通している必要があり、その難易度の高さもバイオインフォマティシャンの人材不足に影響していると言えるでしょう。

現在、wet系研究者がdry系技術を習得したり、IT業界で働いてきた人材が生物学を習得してバイオインフォマティシャンに転身したりするなどの動きも出てきています。

バイオインフォマティシャンは、今後もさまざまな分野の企業で需要が拡大されることが予想されるため、興味がある方は早めに挑戦することをおすすめします。