バイオと化学には密接な関係性があり、バイオ研究者が扱う生命現象や実験については化学の知識も関係します。 そのため、大学や大学院でバイオ領域を学び、研究に従事した人が、卒業後に化学メーカーに就職するというケースも少なくありません。
では、「バイオ研究者が学ぶべき化学」とは何でしょうか?化学の分野は多岐にわたりますが、その一つが化学とインフォマテクス(情報学)を結び付けた「ケモインフォマティクス」です。
前半では、生物学と化学の両学問の研究領域や就職においての関連性や、両者を融合させた際の学問領域「ケミカルバイオロジー」と「バイオケミストリー」、さらに「ケモインフォマティクス」の概要や使用する言語について説明しました。(>>前半の記事はこちら)
後半では、創薬分野で進むケモインフォマティクスとバイオの融合について解説します。
監修者プロフィール
バイオと化学の融合というテーマの中で、特にシナジーが期待できるのは創薬分野です。
新しい薬を生み出す過程においては、バイオと化学、それぞれの叡智を結集させることが求められます。その点で、化学と情報学を融合したケモインフォマティクスにバイオインフォマティクスを組み合わせる手法が注目されています。
バイオインフォマティクスとは、生命現象をコンピューターを使って解析・研究する学問です。
その対象領域は幅広く、例えば環境汚染物質を分解する生物や有用な物質を生み出す生物を見つけ出すために用いられます。
創薬分野では、膨大なゲノムデータを解析して病気のメカニズムを明らかにしたり、タンパク質の形や動きを調べて治療薬を開発したりします。
ゲノム情報を出発点とし、創薬の標的遺伝子探索からリード化合物検索を経て、臨床段階まで至るのは、高度な複合領域といえるでしょう。
そのため、創薬分野にはバイオインフォマティクスのみならず、ケモインフォマティクス領域の知見や技術も必要とされます。2つの情報科学の統合を図ることが今、求められているのです。
医療現場には、日々の診療記録など膨大な医療ビッグデータが蓄積されています。その中には、臨床で使用されている既存薬の効能や副作用に関する情報も含まれます。
こちらのデータは、ヒトや動物、細胞の生命科学情報であるバイオインフォマティクスが扱うデータと、医薬品の化学構造に関するケモインフォマティクス領域のデータに大きく分けられます。
そして分類した膨大なデータは、既存薬の新しい効果を見出す研究である「ドラッグリポジショニング研究」に適しているといわれています。
ドラッグリポジショニング研究のメリットは、すでに有効性や安全性に関するデータが多く蓄積されていることから、新薬を開発するより低コストでスピーディーに臨床現場で活用できる点にあります。
ここでは、ケモインフォマティクスとバイオインフォマティクスを融合し、研究を進めている岡山大学の事例を取り上げます。岡山大学の研究グループは、ドラッグリポジショニング研究の手法により主に難治性疾患や薬剤性副作用に対する治療薬・予防薬を開発しています。
これまでは患者数が少なく、病態が未解明であることから開発が進んでいませんでしたが、バイオインフォマティクスとケモインフォマティクスを組み合わせることで、既存薬から治療薬や予防薬の新たな効果を見出してきました。
例えば、約2500万症例の薬剤性副作用報告が蓄積されているFDA有害事象報告システムのデータベース、米NIHが提供している約2万件の遺伝子発現を類推するデータベースから、抗がん剤誘発末梢神経障害に対しては高脂血症治療剤であるシンバスタチンが有効であると分かりました。
このように、バイオインフォマティクスとケモインフォマティクスを融合するアプローチは、標準医療が確立されていない難治性がんに対しても治療薬開発につながると期待されています。
情報学を支えるテクノロジーの進化によって、従来の「生物学」や「化学」の垣根は取り除かれつつあります。
特に創薬分野では、病気のメカニズムを明らかにして新薬を開発するのに有用な2つの情報学、「バイオインフォマティクス」と「ケモインフォマティクス」の統合的融合が必要とされ、その傾向は今後ますます強くなるでしょう。
どれほど専門的に深く学ぶかは別にして、バイオ研究者はケモインフォマティクスの領域についても関心や知識を持つようにし、そのアプローチについて確認しておくことが人材価値の向上につながるでしょう。
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