バイオ系の研究職に就職をする場合、大きく分けて2つの道が存在します。1つが民間企業、そしてもう1つがアカデミアへの就職です。民間企業に就職して実務経験を積んできた方の中には、自身の対応する手技範囲が狭いため、業務領域の拡大を目指して転職を考えるケースも少なくありません。その際、次の就職先としてはアカデミアも選択肢の1つになるでしょう。
しかし、これまで民間企業で働いていた方の場合、アカデミアでの働き方についてはよく分からなくても無理はありません。また、バイオ系研究職の就職先として、両者は対比関係でよく比較されますが、実際はどのように異なるのでしょうか。それぞれの実態をよく知った上で、自分の働き方に合った進路先を選ぶことが重要です。
これまで民間企業で働いてきた人がアカデミアを就職先の選択肢の1つにできるよう、民間企業とアカデミアでの働き方の違いについて解説します。
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アカデミアとは、大学や公的研究機関での研究職を指します。アカデミアは非営利団体であり、公的研究機関としてよく知られている組織には、理化学研究所や産業技術研究所などがあります。物質・材料研究機構などの国立研究開発法人や、県立工業技術センターなどの公設試験研究機関なども分類はアカデミアです。
アカデミアと民間企業は、バイオ系研究者が働く就職先としてよく比較されます。一方、両者は必ずしも取り組む仕事内容が全く異なるというわけでもありません。アカデミアの中でも民間企業寄りの研究をしている大学や研究機関もありますし、その反対も然りです。さらに産学連携、産学官連携が進められており、アカデミアと民間企業が共同でプロジェクトに取り組むこともあります。
単に「アカデミアか民間企業か」という二項対立ではなく、それぞれの実態をよく理解した上で、自分の適性や目標などと比較して、自身に合った就職先を見極めていく姿勢が重要です。
民間企業とアカデミアの最たる違いは、営利団体と非営利団体に分かれる点です。
民間企業は新たなサービスや新商品を出すことにより、利益を創出する経済活動が主目的となります。一方、アカデミアでは短期的な利益よりも、学術的に意義のある研究が重視される傾向にあります。
民間企業は応用研究、アカデミアでは基礎研究が主流という大まかな分類で考えるとより分かりやすいでしょう。
民間企業とアカデミアは営利団体か否かという点で、研究方針や予算、期間なども大きく異なります。さらに、研究の自由度や労働環境などにも両者の違いが反映されます。
・研究の自由度
営利団体である民間企業では研究成果で利益を出し、会社として成長することが不可欠です。製品価値や投資価値を生むためには、短期間のうちに応用研究で成果を出さなければなりません。そのため、「将来的に役立つ研究」ではなく、「世の中が今、求めている製品」を開発します。民間企業は、利益や成果に基づく研究を追い求める点が特徴です。
スピードと成果重視の民間企業の研究は、人件費に予算を割き、1つの研究に対して複数の研究者が携わります。そのため、各研究者が扱う範囲が分業化されているケースも大半です。個人の研究の自由度としては、アカデミアと比較すると狭くなる可能性が高いでしょう。
非営利団体であるアカデミアでは、短期的な成果が見えにくい学術研究がメインになります。国や行政などへ予算繰りの稟議を通すことや、長期的な支援にこぎつけるだけでも容易ではありません。アカデミアでも、研究に関する多額の予算を確保できる成果を上げているのは、一握りというのが実態です。
一方、民間企業と異なり利益を優先しない分、研究価値があるとみなされるテーマであれば、時間をかけて自分が納得のいくまで研究することが可能です。また、予算が限定的になりがちなアカデミアでの研究は、1つの研究に対して一人ということも少なくありません。アカデミアで研究する上では、自分主体で研究を進める必要があります。
アカデミアでは研究にかける予算は限られています。しかし、民間企業と比較した場合、研究者個人の研究の自由度は高いと言えるでしょう。
・労働環境
民間企業とアカデミアでは、雇用状況の実態が異なります。
民間企業では正社員として無期契約で雇用されるのが一般的ですが、アカデミアでは有期雇用のケースが大半です。なぜなら、アカデミアで民間企業の正社員のような無期雇用を希望する場合は、教授などある程度のポストに到達する必要があるからです。
また、アカデミアの就職においては「雇い止め」について度々報道されています。ネガティブな発信として受け取られがちですが、研究者の無期雇用化へ方針転換する機関も出てきており、今後の動向が注視されています。
雇用期間を更新せずに契約を終了させるアカデミアが増えたのは、2013年に成立した改正労働契約法の「無期転換ルール」が要因です。法改正により、有期雇用で5年以上、研究者は特例で10年以上の任期付きの非正規雇用として働いた場合、無期雇用に転換可能になりました。
本来は、有期雇用の労働者の経済的地位を安定させるために定められたルールです。しかし実際には、無期転換が可能となる前に「雇い止め」を選択するアカデミアが少なくなかったものも事実。期待した効果とは正反対の事態が生じています。
「雇い止め」をすることで、長年続けてきた研究の打ち切りや、優秀な人材の海外流出などが起こります。大学側にとっても不利益が生じますが、それでも「雇い止め」をせざるを得ない事情も把握する必要があるでしょう。それは、すぐに成果を出すのが難しい学術研究をメインとするアカデミアでは、予算の確保が難しい点です。国からの研究資金も、競争を促すためにプロジェクトごとに支給されるケースも少なくありません。長期的な人件費の確保が見込めないため、無期雇用への変更が難しいというのが実情です。
これら実情を理解した上で、自分が目指す道を見極めることが重要でしょう。
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民間企業とアカデミアでは特徴が異なります。自身の性質や研究スタイルを踏まえて選択すれば、ミスマッチの防止にもつながります。民間企業とアカデミアのそれぞれに適したタイプを知り、進路選択のヒントにしましょう。
研究者として民間企業に向いているのは、スピーディーに自分の研究成果を出したいというマインドの持ち主です。
民間企業は応用研究で開発した製品をできるだけ早く発売し、より多くの消費者に購入、使ってもらうことで売上を伸ばします。その目的実現のためにも、研究予算を投下し、アカデミアよりも優れた研究設備を導入している企業もあります。
例えば、アカデミアでは時間をかけ、一つひとつ研究者の手で行う作業や実験も、民間企業では多くの予算を投資することで、環境を充実させて効率化を図れるケースも珍しくありません。アカデミアと比較し、研究スピードは2倍、3倍になることもあります。
応用研究で市場のニーズに合った製品開発にチャレンジし、成果を出していきたいという方には民間企業の研究職が向いているでしょう。
研究者としてアカデミアに向いているのは、学問の発展を目指したいという知的好奇心の高い人です。
研究者であれば誰しも知的好奇心を持ち合わせていますが、アカデミアでは「すぐに役立つこと」よりも「今すぐには役立たないとしても学問的に価値があること」が重視されるため、個々人の知的好奇心が学問的な探求に志向している方のほうが馴染みやすいでしょう。
アカデミアは公的研究機関であるため、論文を世の中に出すことも大きな役割の一つです。そのため、営利目的ではなく「人類の英知の結集を目指す」「未知の領域で研究成果を出す」という志を抱くタイプの人は、アカデミアがマッチする可能性が高いでしょう。
もっとも、基礎研究は応用研究につながり、長い時間をかけていつの日か社会を大きく変革するポテンシャルを秘めています。長期的な視点から世界や社会の未来を見据える研究者によって、アカデミアの地道な研究は支えられていると言えます。
自分の研究スタイルや実績、経験などを踏まえ、アカデミアか民間企業のどちらに適性があるかを見極めることは大切です。また、一度アカデミアに就職すると、民間企業に転職できないというわけではありません。実際、インターネットで検索するだけでも、アカデミア・民間企業間での転職事例は数多く見つかり、キャリアパスとして十分実現できる可能性があります。
民間企業とアカデミアでは、営利団体か否かという点で、研究する目的意識が大きく異なります。その違いをきちんと理解した上で、バイオ系研究職に関するトレンドや情報収集を怠らないようにしましょう。
民間企業に就職した方でも、これまでの経験を活かしてアカデミアで働くことは可能ですし、その反対も然りです。キャリアの棚卸しをしっかりと行い、自分が目指したい方向性や目的意識、重視する点について客観的に分析することも欠かせません。
これらのプロセスをきちんと経ていれば、アカデミア・民間企業間での転職も十分可能です。
バイオ系研究職における転職先に迷う場合は、民間企業は営利団体、アカデミアは非営利団体という違いを意識した上で、自身の目指したい方向性を明確にすることが重要です。
民間企業は自分の研究・開発が社会実装され、スピーディーに成果を出したい人に向いています。それに対し、アカデミアは自分の研究がすぐに実用化されなくても、学問的に価値があれば知的好奇心を持って研究し続けたいという人におすすめです。
自分が研究によって何を成し遂げたいのか、明確な目的意識を持っていれば、これまでのキャリアを活かした民間企業・アカデミア間での転職というキャリアパスも描けるでしょう。
「民間企業かアカデミア」という軸を持ちつつ、それぞれの特徴や自分の適性を知ることで、就職や転職のミスマッチは減らせます。たとえば、豊富な情報を持ち、たくさんの事例を把握しているエージェントの活用も一つの方法となるでしょう。
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