【再生医療関連事業⑥】培地事業の最新動向を解説

こちらのコラムでは、再生医療分野に参入している業種や新たな産業化の取り組みについてシリーズでお届けします。「CDMO(医薬品開発製造受託事業)」についてお伝えした第5弾に続いて、今回は「培地事業」について見ていきましょう。

再生医療の進展には、iPS細胞やES細胞などの幹細胞を安定的かつ効率的に培養する技術が欠かせません。その中核を担うのが、細胞の成長や分化を左右する「培地」です。

この培地は再生医療の医療応用の拡大とともに注目されており、さまざまな企業が参入しています。

本記事では、バイオ研究者が押さえておきたい培地事業の現状やトレンド、企業の取り組みについて解説します。

【本記事の概要】
・培地事業は、iPS細胞やES細胞を扱う再生医療の根幹を支える重要分野
・高度な技術力と品質管理体制が不可欠であり、大量生産における品質維持が課題
・再生医療分野の発展などにより、世界の培地事業は今後も順調な成長が見込まれる
監修者プロフィール

福山篤史氏
日本総合研究所 創発戦略センター コンサルタント「微生物によるバイオプラスチック生産」を対象とした研究開発の経験を活かし、現職では、政府機関・民間企業に対するバイオテクノロジー・バイオマス由来製品の実装に向けた戦略策定支援、カーボンリサイクル/CCU(Carbon Capture and Utilization)技術の実装に向けた産官学連携のコンソーシアムの企画・運営を担当。著書に「図解よくわかる スマート水産業 デジタル技術が切り拓く水産ビジネス(共著)」「図解よくわかる フードテック入門(共著)」(日刊工業新聞社)。
福山篤史氏

再生医療分野の関連事業「培地事業」の概況

顕微鏡をのぞく人

「培地」とは、細胞や生物組織を培養する際に必要な生育環境を指します。

細胞が増殖・分化するためには、アミノ酸、糖質、成長因子などの細胞生育に適した栄養液が欠かせません。特にiPS細胞やES細胞を用いる再生医療分野では、細胞の特性や目的に応じた最適な培地設計が求められ、高度な技術と品質管理が必要とされます。

この培養環境の開発・製造・販売を行うのが培地事業です。

細胞培養培地の市場規模と成長性

世界の細胞培養培地の市場規模は2023年時点で25億6,000万米ドル(約3,656億円)と推計されており、2024年には27億5000万米ドル(約3,926億円)、2032 年には74億5,000万米ドル(約1兆6,632億円)まで成長すると予測されています。

背景にあるのは、バイオ医薬品製造における培地事業の重要性の認識拡大や、幹細胞研究の進展、大手企業による個別化医療や再生医療分野への本格的な投資といった要素です。これらが市場の成長を力強く後押ししています。

すでに、培地の性能や再現性の高さが研究・製品開発のスピードを左右する時代になりつつあります。研究者や技術者の知見が産業化の鍵を握る領域として、注目度はさらに高まっていくでしょう。

培地事業の特徴

培地事業には、主に以下の3つの特徴があります。

技術力に裏打ちされた品質や安全性が必要

培地の開発では、成分のわずかな違いが細胞の増殖や分化に影響するため、精密な配合設計が不可欠です。また、GMP(適正製造基準)に準拠した製造体制を構築し、ロット間で品質の均一性を保つ必要があります。安定した品質を確保するには、厳格な管理体制も求められます。

さらに、無血清培地などの新技術開発への対応も不可欠であり、それに応じた技術者の育成と、絶え間ない技術革新が培地事業においては重要な要素となっています。

技術力に裏打ちされた培地の品質や安全性は、細胞治療の実用化が進む中でこれまで以上に重視されていくでしょう。

特定用途向け製品が加速

ES細胞、iPS細胞、間葉系幹細胞など、細胞種ごとに最適化された培地の開発が進んでいます。遺伝子改変技術の進展により、細胞ごとに必要な成分が異なることから、培地の細分化が一層加速しています。また、臨床応用を見据えたGMP準拠の製品開発は、各企業の競争力を左右する重要な要素です。

需要とグローバル展開可能性の拡大

再生医療市場の拡大に伴い、培地の需要も年々増加しています。これは、培地事業における新規参入のチャンスも広がっていることを意味します。

産学連携やオープンイノベーションが活発化しており、企業と研究機関が連携して次世代培地の開発を推進中です。さらに、海外市場でも高品質な培地へのニーズが高まっており、日本企業にとってはグローバル展開の好機となっています。

培地事業の課題

グラスとビーカー

培地事業は、今後のバイオテクノロジーや製薬業界において不可欠な役割を果たすことが期待されていますが、さらなる発展のために乗り越えるべき課題も存在します。ここでは、特に注目される2つの主要な課題について整理します。

コスト削減と安定供給

培地の製造には、高品質な原材料の調達や厳格な製造管理が求められます。

一方で、細胞治療や再生医療分野の普及においては、培地の価格は最終製品の治療コストに直結するため、「低コストでの供給体制の確立」が不可欠です。

しかしこうした状況は、効率的な生産プロセスの導入や原料調達の多様化、サプライチェーンの最適化など、イノベーションの余地が大きい分野でもあります。これらの取り組みによって国内外で供給の安定性を高めることができれば、企業にとっては大きな差別化要因となり、グローバル市場での信頼獲得にもつながるでしょう。

品質管理と規制対応

培地は細胞培養の土台となる重要な資材であるため、製品間での品質の一貫性が求められます。品質のばらつきは研究成果や臨床応用における再現性や安全性に影響を与えるリスクがあり、厳密な管理体制の構築が欠かせません。

また、培地の製造・販売には各国の規制やガイドラインへの適合が求められます。具体的にはGMPへの対応や、将来的な臨床・商用利用を見据えた品質保証の仕組みが重要です。

こうした規制対応をクリアすれば、事業の信頼性は大きく向上します。規制を正しく理解し柔軟かつ的確に対応する体制を整えることは、長期的な競争優位の確立にもつながります。

培地事業に取り組む企業3選

以下では、独自の強みを活かして培地事業を推進する注目企業を3社紹介します。

味の素ヘルシーサプライ株式会社の培地事業

味の素ヘルシーサプライ株式会社の主な事業内容は、医薬品、食品、飲料、飼料、香粧品など原材料の売買・輸出入や、化粧品、医薬部外品、トイレタリー商品の受託製造です。

同社が販売する再生医療用培地「StemFit®」はiPS・ES細胞増殖用培地として高い水準を備えており、培地交換の頻度、細胞の増殖率、安定性の面で高いコストパフォーマンスを実現しています。

味の素ヘルシーサプライ株式会社では培地事業に関する法人営業を募集しています。求められるスキルなど(一部)は以下のとおりです。

【仕事概要】
・製薬メーカーなどの顧客に対し、同社で扱う原料及び培地の提案営業を実施
・味の素(株)の研究所や同グループ法人と連携・協業し、顧客への提案活動を行う

【応募条件】
必須条件
・定期的な出張が可能(週1回程度)
・医薬/バイオ領域におけるバックグラウンド(就業経験や就学など)
・営業として顧客と積極的にコミュニケーションを推進できる

歓迎要件
・英語コミュニケーションに抵抗のない方(メール対応など)
・バイオテクノロジーや医薬品の創薬に関心があり、新しい知識の習得に意欲的な方
・長期的な取り組みが多いため、粘り強く顧客とコミュニケーションが取れる方

富士フイルム和光純薬株式会社の培地事業

富士フイルム和光純薬株式会社の主な事業内容は、試薬、化成品ならびに臨床検査薬の開発・製造です。同社では、間葉系幹細胞の増殖用培地を取り扱っており、異種動物成分含有・不含の両タイプの取扱いがあります。

商品ラインアップ
・PRIME-XV MSC XSFM MDF1(GMP準拠製造品)
・PRIME-XV MSC Expansion XSFM(GMP準拠製造品)

富士フイルム和光純薬株式会社では、培地事業に関する「品質保証」のポジションを募集しています。求められるスキルなど(一部)は以下のとおりです。

【仕事内容】
・培地や化成品の品質保証(管理職候補)

【応募条件】
化学または薬学のバックグラウンドを有し、下記に該当する方
・GMP下での品質保証業務経験
・GMP下での品質管理経験(試験責任者、逸脱管理、変更対応いずれかの経験)
・GMPで規制される製品に関して、技術移転や、プロセス開発経験をお持ちの方

ソラリスバイオ株式会社の培地事業

ソラリスバイオ株式会社は、再生医療向けの培地や原料の研究開発、製造、販売をするスタートアップです。他にも受託開発、共同開発を行っています。

AIを活用した独自技術により、細胞製剤の安全性と有効性の向上とコストダウンの両立を実現し、次世代の再生医療を支えています。

同社の培地の特徴は動物由来成分を含まない「AF培地」で、狙った変化を与えやすい、処方設計の自由度が高い、実験再現性が高いなどの狙いがあります。

ソラリスバイオ株式会社では、「研究開発」、「マーケティング・営業活動」職を募集しています。求められるスキルなど(一部)は以下のとおりです。

【分野】
研究開発

【仕事内容】
・培養上清開発
・薬理試験
・細胞機能の基礎研究
・商品開発
・製造

【必須要件】
・治らない病気を治したいという強いパッションを持っている
・細胞培養の経験がある方
・細胞機能の基礎研究の経験がある方

【分野】
マーケティング・営業活動

【仕事内容】
・国内外の市場調査
・マーケティング戦略
・展示会
・事務
・海外事業

【必須要件】
同上