【再生医療関連事業⑤】CDMO(医薬品開発製造受託事業)の最新動向と注目企業例

こちらのコラムでは、再生医療分野に参入している業種や新たな産業化の取り組みについてシリーズでお届けします。「iPS細胞培養受託事業」についてお伝えした第4弾に続いて、今回は「CDMO(医薬品開発製造受託事業)」について見ていきましょう。

近年注目されている再生医療分野では、製薬、バイオ、化学、医療機器など、さまざまな業種産業化が進んでいます。参入企業にとって開発コストの増加や多種多様なモダリティ(薬の形態や治療手段)への対応は大きな課題となっており、これらの課題を解決すべく存在感を増しているのが「CDMO(医薬品開発製造受託事業)」です。

この記事では、バイオ研究者が押さえておきたいCDMOの基礎知識や事業の特徴・課題、さらに実際にCDMO事業に取り組む代表的な企業事例を紹介します。

【本記事の概要】
・CDMO(医薬品開発製造受託事業)とは、再生医療等製品や医薬品などの開発および製造を受託する事業のこと
・CDMOは個別最適が求められる再生医療等製品に対応するため、多様な製造工程を備え、クライアントと協業しながらスピーディに課題解決を図っている
・CDMO事業では高度な技術を持つ専門人材の不足が課題となっており、バイオ研究者にとっては活躍のチャンスが広がっている
監修者プロフィール

福山篤史氏
日本総合研究所 創発戦略センター コンサルタント「微生物によるバイオプラスチック生産」を対象とした研究開発の経験を活かし、現職では、政府機関・民間企業に対するバイオテクノロジー・バイオマス由来製品の実装に向けた戦略策定支援、カーボンリサイクル/CCU(Carbon Capture and Utilization)技術の実装に向けた産官学連携のコンソーシアムの企画・運営を担当。著書に「図解よくわかる スマート水産業 デジタル技術が切り拓く水産ビジネス(共著)」「図解よくわかる フードテック入門(共著)」(日刊工業新聞社)。
福山篤史氏

再生医療分野の関連事業「CDMO(医薬品開発製造受託事業)」の概況

CDMO(Contract Development and Manufacturing Organization:医薬品開発製造受託事業)とは、再生医療等製品や医薬品などの開発・製造業務を受託する事業を指す言葉です。

CDMOは、製薬会社やバイオベンチャーなどから依頼を受け、細胞培養、製造、品質管理、品質保証などの工程を代行します。製品の開発初期段階から関与し、プロセス開発、治験薬の製造、商用製造まで一貫して対応するのが特徴です。

似ている言葉に「CMO(Contract Manufacturing Organization:医薬品製造受託機関)」がありますが、大きな違いはサービスの範囲にあります。CMOの役割はあらかじめ確立された製造プロセスに基づき、「製造」に特化した業務を担うことです。製薬会社からの依頼に応じて、既存製剤の大量生産や特定工程の製造を請け負います。

一方、CDMOは製剤の研究や治験薬製造など、「開発段階」の業務も含めて対応する点が特徴です。特に再生医療等製品やバイオ医薬品の分野では、開発段階での製造技術が未確立であることが多く、CDMOのように開発初期から製造までを包括的に支援できるパートナーの存在が企業にとって不可欠です。

CMOとCDMOの違い_PC
CMOとCDMO違い_SP

CDMO(医薬品開発製造受託授業)の特徴

再生医療等製品の開発

CDMOには、主に以下の3つの特徴があります。

製造工程におけるニーズが多様

CDMOは多様な製薬会社からの依頼に応じ、さまざまな医薬品の製造を行います。特に再生医療等製品では、患者由来の細胞を用いた製品や、個別化医療向けの製品が多い点が特徴です。

製造プロセスが複雑な上、各企業が保有する設備の形状やスペックが微妙に異なるため、同じ医薬品であっても製造時に直面する課題が異なる場合があります。
製薬会社のニーズに応えるため、CDMOには製造オペレーターの高い熟練度や、医薬品規制に関する深い知識が求められます。

法規制への対応が必要

CMDOでは、常に最新の法規制に準拠した製造・品質管理体制の整備が求められます。
これには、再生医療等製品に関する薬機法やGCTP省令(再生医療等製品の製造管理及び品質管理の基準に関連する省令)、GMP(適正製造規範)、バリデーションなどの対応が含まれます。

なかには、複数の国や地域に製造拠点を持ち、世界各国の規制当局から承認を得た実績のあるCDMOも存在します。海外展開を視野に入れる製薬会社にとって、グローバルな供給体制を有するCDMOは重要なパートナーとなります。

クライアント企業との協業した伴走型支援が一般的

CDMOは単なる受託企業ではなく、クライアントと協業し、開発から製造までを一貫して支える「伴走型」の支援体制を特徴としています。
研究初期段階から製造プロセス開発、治験薬の製造、商用製造、出荷まで、あらゆる工程においてクライアントと密に連携します。

特に再生医療等製品は製品ごとの個別対応が必要なため、CDMOの専門知識や技術力が課題解決や開発スピードの向上に直結します。
CDMOを活用することで、製薬会社は自社の研究開発に集中しながら、医薬品の市場投入を迅速に進めることが可能になります。

CDMO(医薬品開発製造受託事業)の課題

実験をする人

再生医療分野の発展に不可欠なCDMOですが、その成長を支えるためには、乗り越えるべき課題も存在します。
ここでは、特に重要とされる2つの課題について紹介します。

高度な人材の確保(バイオ・細胞培養技術者、品質管理者など)

再生医療等製品の製造には、高度な細胞培養技術や品質管理のスキルが求められます。
しかし、こうした専門人材の確保は容易ではなく、業界全体で人材獲得競争が激化しているのが現状です。特に、品質保証や品質管理に精通した人材の不足は、CDMOの事業拡大や安定運営の課題となっています。
とはいえ、このような状況はバイオ研究者にとっては大きなチャンスとも言えるでしょう。研究現場で培った技術や知識を活かし、再生医療の産業化を支える側として活躍する道が、今まさに開かれつつあります。

生産規模の拡大に頼らないコストダウン

再生医療の製造は多くの場合「多品種・少量生産」となりやすく、大規模生産によるコストダウンが難しいという課題を抱えています。
また、製造や品質管理の工程には手作業や製品ごとのカスタマイズ対応が多く含まれ、自動化や標準化が進みにくい傾向もあります。

そのため、生産性の向上や効率的なオペレーションの構築はCDMOにとって喫緊のテーマとなっています。
しかしこれは、裏を返せば工程開発やスケールアップのノウハウを持つ人材が重宝される環境でもあるということ。技術者や研究者にとっては、キャリアの幅を広げるチャンスでもあります。

CDMO(医薬品開発製造受託事業)に取り組む企業3選

前述の課題に向き合いながらも、独自の強みを活かしてCDMO事業を推進する注目企業を3社紹介します。

ロート製薬株式会社のCDMO(医薬品開発製造受託事業)

ロート製薬株式会社は、再生医療関連事業で培った独自のノウハウや技術を活かし、再生医療等関連製品のCMO/CDMO受託サービスを展開しています。

また、GMP(医薬品などの製造管理・品質管理に関する基準)およびGCTP(再生医療等製品の製造管理・品質管理に関する基準)に準拠した施設を保有。iPS細胞、間葉系幹細胞、PRP(多血小板血漿)など、再生医療の基盤となる細胞の加工・供給を支援しています。

なお、現在(2025年4月時点)、CDMO事業関連する求人情報は確認できませんでした。

帝人グループのCDMO(医薬品開発製造受託事業)

帝人グループは、グループ会社である帝人リジェネット株式会社および株式会社ジャパン・ティッシュエンジニアリングを通じて、再生・細胞医療等製品の開発およびCDMO事業を展開しています。

帝人リジェネットは、CDO拠点である「柏の葉ファシリティ」と、帝人リジェネットCMO拠点である「岩国ファクトリー」を有し、ワンストップで再生医療シーズ実用化課題の解決を目指している企業です。T細胞、間葉系幹細胞、iPS細胞など、多様な細胞の取り扱い実績があり、2024年3月時点で230件を超える受託実績を有しています。

なお、現在(2025年4月時点)において、関連する求人情報は確認できませんでした。

タカラバイオ株式会社のCDMO(医薬品開発製造受託事業)

タカラバイオ株式会社は、大学や企業におけるライフサイエンス分野の研究を支援するバイオ事業を主軸に、CDMO事業や遺伝子医療事業を展開しています。

CDMO事業では「再生医療等製品関連受託」および「遺伝子解析・検査関連受託」の分野に注力。大規模なGMP・GCTP対応施設である「遺伝子・細胞プロセッシングセンター」では、ベクターや遺伝子導入細胞の製造、品質管理試験体制の強化を進めています。

さらに設備拡大と並行して、効率的な細胞拡大培養法や、ベクター製造のスケールアップ技術の開発、製造工程の自動化にも取り組み、拡大する製薬会社などのニーズに対応できる体制を整えています。

タカラバイオ株式会社では、CDMOの領域で人材を募集しています。求められるスキルなど(一部)は以下のとおりです。

【分野】
生産技術開発・製造

【仕事内容】
GCTP製造施設で実施する再生医療等製品やウイルスベクター、タンパク質などの製造・生産技術開発、幹細胞関連製品の開発製造、細胞加工など

【求める経験】
・遺伝子、細胞(ヒト・動物)、ウイルスを取り扱ってきたことがある方
特に細胞調製施設での実務経験者やCMO(医薬品製造受託機関)経験者、バイオ医薬品製造経験者、レギュラトリーサイエンス経験者は歓迎

【分野】
品質管理

【仕事内容】
当社製品および受託製品の品質試験や試験方法・条件の検討、安全性試験、バリデーションの計画書・報告書の作成、実施など

【求める経験】
・遺伝子、細胞(ヒト・動物)、ウイルスを取り扱ってきたことがある方
特にバイオ医薬品の品質管理業務や品質保証業務の経験者は歓迎

【分野】
研究支援(遺伝子解析業務)

【仕事内容】
最先端の次世代シーケンサーやマイクロアレイ等を使用し、遺伝子解析や新規解析法の開発、遺伝子検査

【求める経験】

・次世代シーケンサー解析(サンプル調製から次世代シーケンサー解析)担当
※次世代シーケンサーを用いた事のある方歓迎