
【再生医療関連事業④】細胞培養加工施設(CPC)事業の最新動向を解説
こちらのコラムでは、再生医療分野に参入している業種や新たな産業化の取り組みについてシリーズでお届けします。第3弾では「バイオマテリアル(生体材料)」についてお伝えしました。第4弾となる今回は、「細胞培養加工施設(CPC)」について見ていきましょう。
近年、再生医療分野には多様な業種が参入し、産業化が進んでいます。
その1つに、再生医療で使用する細胞を培養、加工、製造する「細胞培養加工施設(CPC)」事業があります。しかし、中小規模の病院や企業がCPCを自前で持つことは難しく、必然的に外部委託が有力な選択肢となってきます。
本記事では、バイオ研究者が知っておくべき、CPC事業の概要や最新トレンド、具体的な事例を紹介します。
・細胞培養加工施設(CPC)とは、再生医療や細胞治療に用いる細胞を培養・加工・製造するための施設
・CPCは、医療向けの細胞製造インフラを提供する重要な役割を担い、厳格な品質管理や法的規制への対応が求められる
・CPC事業の収益化には、設備・運用コストの高さ、品質管理の難しさ、法的規制への対応の必要性などの課題がある。これらの課題を乗り越え、事業展開する3つの企業について紹介する
日本総合研究所 創発戦略センター コンサルタント「微生物によるバイオプラスチック生産」を対象とした研究開発の経験を活かし、現職では、政府機関・民間企業に対するバイオテクノロジー・バイオマス由来製品の実装に向けた戦略策定支援、カーボンリサイクル/CCU(Carbon Capture and Utilization)技術の実装に向けた産官学連携のコンソーシアムの企画・運営を担当。著書に「図解よくわかる スマート水産業 デジタル技術が切り拓く水産ビジネス(共著)」「図解よくわかる フードテック入門(共著)」(日刊工業新聞社)。

再生医療分野の関連事業「細胞培養加工施設(CPC)事業」の概況
細胞培養とは、生物から取り出した細胞を特定の条件下で増殖させる技術です。細胞が健康的に成長し、必要な量に達するように最適な環境を整えなければなりません。この技術は、研究、製造、医療、農業など幅広い分野で求められています。
中でも、再生医療や細胞治療に用いる細胞(特定細胞加工物)を培養・加工・製造するための施設を「細胞培養加工施設(CPC)」と呼びます。CPCは「再生医療等安全性確保法」にもとづき、適切な管理と運営が求められています。
CPCは外界と遮断された環境で運営され、汚染を防ぐためのさまざまな対策が施されています。また、無菌環境を維持しながら24時間稼働が可能であり、高度な細胞培養作業を実施できます。
出典:厚生労働省「細胞培養加工施設について(概要)」
細胞培養加工施設(CPC)事業の特徴
細胞培養加工施設(CPC)事業には、大きく3つの特徴があります。
1.医療向け細胞製造のインフラ提供
CPCは、病院や製薬企業、バイオベンチャーなどに対し、医療グレードの細胞製造環境を提供しています。そしてそこで幹細胞や免疫細胞を培養し、治療や研究のための加工を行います。
一般的に、医療機関がCPCを自前で運営するには、多額の設備投資や厳格な品質管理が欠かせません。しかし、設備投資や品質管理には多くのコストが必要となるため、現実的な選択肢として外部委託の需要が高まっています。
2.厳格な品質管理と法規制対応
CPCは、厚生労働省が制定する「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準(GMP)」に準拠した無菌環境(クリーンルーム)を維持し、細胞の品質と安全性を確保する必要があります。
また、CPCでは「トレーサビリティ管理」の徹底も求められます。一般的なトレーサビリティ管理とは、原材料の調達から消費・廃棄までの履歴を「追跡できる状態にすること」を指します。一方、CPCにおけるトレーサビリティ管理では、細胞の由来や培養履歴を記録し、追跡可能にすることが重要です。
CPCのトレーサビリティ管理は「再生医療等安全性確保法」の規制対象であり、PMDA(医薬品医療機器総合機構)の審査・承認が必要です。
3.受託培養・細胞加工のビジネスモデル
CPC事業者は製薬企業や研究機関からの委託を受け、細胞の培養・加工・保存・輸送を行います。CPCで培養・加工された細胞は、以下の分野で活用されます。
・免疫細胞療法
・iPS細胞を用いた治療
・遺伝子改変細胞療法(CAR-T療法)
また、大きなケガや病気に備えて細胞の保存・供給する「細胞バンク事業」も成長分野の1つです。
細胞培養加工施設(CPC)事業の課題
ここでは、CPC事業における主な課題を4つ取り上げます。
1.設備・運用コストの高さ
CPC事業では、24時間稼働の無菌環境を維持するために、クリーンルーム・高性能フィルター・空調管理システムなどが不可欠です。そのため、導入コスト・運用コストが高額になります。また、GMP対応には文書管理・品質試験・人材確保なども必要であり、これらにもコストがかかります。
2.事業収益化の難しさ
細胞培養の受託ビジネスは単価が高いものの、再生医療・細胞治療市場は発展途上であり需要の変動が大きいため、安定した収益を確保するのは容易ではありません。さらに、細胞は「生きた」製品であり、ロットごとの品質管理が必要なため、大量生産が難しいという課題もあります。
加えて、細胞治療の多くは保険適用外であり、患者の自己負担が大きいため、市場の拡大には時間がかかると考えられます。
3.品質確保の難しさ
細胞のロット間差(個体差)により、均一な品質の確保が難しいという問題があります。また、細胞の輸送時にはバクテリアやウイルスの混入リスクが伴うため、無菌性・安全性の確保は必須です。さらに、凍結保存や温度管理などの技術的な課題も多く、今後の技術革新が求められます。
4.法規制と認可プロセスの壁
日本では「再生医療等安全性確保法」の規制があり、CPCの開設や運営には厚生労働省の許可が必要です。加えて、PMDA(医薬品医療機器総合機構)の承認が求められるケースも多く、認可取得には時間とコストがかかります。
さらに、たとえ国内で認可を得たとしても細胞加工や培養に関する規制は国ごとに異なることから、海外展開が難しいという課題もあります。
細胞培養加工施設(CPC)事業に取り組む企業3選
厳格な法規制の遵守や事業化の難しさなどさまざまな課題もありますが、これらの課題を乗り越えて細胞培養加工施設(CPC)事業に取り組む3つの企業を紹介します。
バイオメディカ・ソリューション株式会社の細胞培養加工施設(CPC)事業
2010年に設立したバイオメディカ・ソリューション株式会社では、細胞培養加工施設(CPC)の運営管理受託、CPC専用製品の開発・販売、細胞培養加工受託など、多岐にわたるサービスを展開しています。
これらを通じて、最先端の細胞培養技術や管理ノウハウを全国の大学病院・研究機関・製薬会社・バイオ関連企業へ提供しています。
以下に、バイオメディカ・ソリューション株式会社でのCPC事業の取り組みの一部を紹介します。
CPCの運営や管理の高品質化実現と維持のため、施設設備の設計から実際の運用における性能まで適格性の評価(バリデーション)や、クリーン環境を維持するための清掃・衛生管理、保守メンテナンス、細胞培養加工施設の運営管理サポートを行う。
・細胞培養加工
必要文書作成から品質試験まで、一貫した細胞培養加工受託に対応。手順書・指図書・記録書などの必要文書の作成、製造する細胞に適した施設の構築、経験豊富なスタッフによる培養の予備試験と培養、各種性能試験品質試験の構築と実施など、細胞培養加工を包括的に提供している。
バイオメディカ・ソリューション株式会社では、細胞の品質試験担当スタッフやバリデーションスタッフなどを募集しています。
細胞の品質試験担当スタッフが求められるスキルなど(一部)は以下のとおりです。
・治療に用いる細胞の品質・安全性を確認する試験
・具体的には主に無菌試験およびエンドトキシン試験、その他細胞の品質試験
【能力・知識・経験】
・少なくとも無菌操作あるいは微生物試験経験者(1年以上)
・無菌試験の経験者優遇
・エンドトキシン試験の経験者優遇
・専門卒以上
由風BIOメディカル株式会社の細胞培養加工施設(CPC)事業
由風BIOメディカル株式会社は2020年に設立したバイオベンチャーで、沖縄県うるま市の「沖縄健康バイオテクノロジー研究開発センター」および「沖縄バイオ産業振興センター」を拠点に事業を展開しています。
主な事業内容は以下のとおりです。
・無菌試験など品質検査の受託委託
・再生医療CMO/CDMO事業
・医薬品原料の研究開発
・化粧品原料の製造・販売
同社では日立製作所と連携し、最新式のCPCを採用しています。このCPCは「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」に準拠しつつ、GMP(薬機法)に準ずる厳格な仕様になっているのが特徴です。
由風BIOメディカル株式会社では、再生医療関連事業の人材を募集しています。求められるスキルなど(一部)は以下のとおりです。
再生医療関連事業
・特定細胞加工物およびバイオセラピー製品の製造業務(細胞培養など)
・機能性原料の製造業務(成長因子など)
・施設管理業務
・コンサルティング業務
【求める人財像】
・協調性を重視して行動できる
・自らの専門性に固執しない
・自ら進んで積極的に行動し、自分自身を管理し、自分が置かれている立場、役割、状況をよく認識する姿勢で前向きに仕事に取り組める
・学ぶ意欲が高い
・看護師
・臨床検査技師
・医師(兼業もしくはアルバイトも可)
日立グローバルライフソリューションズ株式会社の細胞培養加工施設(CPC)事業
日立グローバルライフソリューションズ株式会社は、家電製品、空調機器、設備機器などの販売やエンジニアリング、保守サービスを提供するとともに、デジタル技術を活用したプロダクト・ソリューションを展開している企業です。
同社が提供するサービスの1つに、「CPC用クリーンルーム総合ソリューション」があります。
これは、再生医療分野で求められる無菌性の確保、量産化の技術による品質安定化を目指し、CPC用の設計施工、細胞培養加工機器の連携、保守点検、バリデーションまでトータルエンジニアリングでサポートするものです。
2023年には、前述の由風BIOメディカル株式会社、日立グローバルライフソリューションズ株式会社、および株式会社日立製作所が協創し、最新式のCPCとバリューチェーン統合管理プラットフォームを活用した「再生細胞薬」の提供を開始しました。
現在、同社のCPC事業では、再生医療および製薬市場への事業拡大を進めるために国内外の展開を進めており、設計業務強化のために人員を募集しています。
必須条件として「建築設備(空調・衛生・電気など)の設計経験」などが求められるため、バイオ研究者としての就職は難しいかもしれませんが、歓迎条件には「再生医療、製薬市場に携わった経験、もしくは興味がある方」と記載されています。