【再生医療関連事業②】「iPS細胞培養受託事業」の最新動向を解説

こちらのコラムでは、再生医療分野に参入している業種や新たな産業化の取り組みについてシリーズでお届けします。「iPS創薬支援事業」についてお伝えした第一弾に続いて、今回は「iPS細胞培養受託事業」について見ていきましょう。

現在、成長が期待される再生医療分野では、さまざまな業種の参入や産業化の取り組みが行われています。

iPS細胞を活用した再生医療や創薬開発研究が進む中で、専門的な培養技術や品質管理を提供する受託サービスの需要はさらに高まるでしょう。iPS細胞培養受託の概況やトレンド、具体的な事例などの情報は、バイオ研究者として押さえておきたいポイントです。

監修者プロフィール

福山篤史氏
日本総合研究所 創発戦略センター コンサルタント「微生物によるバイオプラスチック生産」を対象とした研究開発の経験を活かし、現職では、政府機関・民間企業に対するバイオテクノロジー・バイオマス由来製品の実装に向けた戦略策定支援、カーボンリサイクル/CCU(Carbon Capture and Utilization)技術の実装に向けた産官学連携のコンソーシアムの企画・運営を担当。著書に「図解よくわかる スマート水産業 デジタル技術が切り拓く水産ビジネス(共著)」「図解よくわかる フードテック入門(共著)」(日刊工業新聞社)。
福山篤史氏

再生医療分野の関連事業「iPS創薬支援事業」とは

最初に細胞培養や細胞培養受託について確認した上で、iPS細胞培養受託の特徴を解説します。

創薬のための試験管

細胞培養とは動物や植物から細胞を採取し、細胞にとって好ましい人工環境で増殖させることです。組織から直接細胞を採取する場合もあれば、すでに培養されている細胞を使用するケースもあります。
特に動物細胞の培養は、細胞にさまざまな処置を加えることで生体内では観察できない細胞への影響を細かく観察できるため、疾患研究や創薬研究においてとても重要になります。

免疫細胞研究用や再生医療研究用などの細胞培養を受託するサービスのことを「細胞培養受託」といいます。細胞培養を依頼する研究所や企業は、高品質な細胞の確保や細胞培養に必要な設備や技術者の育成コストなどを削減でき、研究や治療に専念できます。

提供されている細胞培養受託サービスの中には、iPS細胞培養に特化しているケースもあります。再生医療を提供する医療機関などは、iPS細胞の細胞培養受託サービスを依頼することで、特に難易度が高く専門的な知識と技術が求められるiPS細胞の培養を外部に任せられます。

再生医療分野でのiPS細胞培養受託サービスの重要性

試験管を用いた実験

再生医療分野でのiPS細胞培養受託サービスは、以下の理由でその重要性が増しています。

1.高度な専門性が必要
iPS細胞の培養には、高度な技術を持つ培養士や厳しい基準を満たした専用設備が必要です。iPS細胞を安定的に増やすこと自体に高い技術力が求められるため、iPS細胞の培養に特化した専門性の高い企業にとっては参入価値が高い分野といえるでしょう。

2.規制対応と外部委託需要の拡大
2014年に施行された「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」により、再生医療を提供する医療機関は特定細胞加工物製造の許可を得た施設(CPC)に限り細胞培養を外部委託できるようになりました。この規制緩和はiPS細胞受託が成長する契機となり、医療機関や研究機関の需要を大きく後押しするようになりました。

3.研究者や企業の効率化支援
再生医療研究や創薬を進める上で、iPS細胞培養受託は高品質なiPS細胞供給を実現し、研究者の負担を軽減する重要な役割を果たします。研究者や企業はiPS細胞の作製を外部に委託し研究に集中できるため、再生医療や創薬研究のスピードが加速し、希少性疾患や難治性疾患などに対する新たな治療法開発が期待されています。

4.産業化への政府支援と連携強化
再生医療、細胞医療、遺伝子治療といった分野は、日本政府が積極的に推進する産業化の重要分野です。この分野に取り組む研究に対しては、公募による研究開発支援や産学連携の機会が提供されており、参入の後押しにつながっています。

再生医療分野が進展する中で、iPS細胞培養受託事業は研究機関や企業が効率的かつ高品質な研究活動を行うための基盤となりつつあります。特に日本国内では供給体制の構築や法的・倫理的課題の解決が進められており、業界全体の発展が期待されているところです。

以下では、細胞培養受託について具体的に取り組んでいる三つの企業を紹介します。

S-RACMO株式会社のiPS細胞培養受託事業

S-RACMO株式会社は、再生・細胞医薬分野の製法開発、製造などの受託(CDMO)事業を行うために、2020年9月に住友化学株式会社と住友ファーマ株式会社によって設立されました。

これまで医薬品事業で培ってきた再生・細胞医薬品の研究や製造技術を活かして、幅広い細胞種で高効率・高収率・高品質の製造開発や生産に対応します。取り扱う細胞はiPS細胞やES細胞、体性幹細胞、体細胞などで、自家細胞及び他家細胞のいずれにも対応しているといいます。

これまで、2021年には米・コーニアジェンとその子会社コーニアジェン・ジャパンとの日本における角膜内皮細胞の製造及び製法開発の受託を発表。2022年には再生・細胞医薬製造施設(通称・FORCE)が稼働し、2023年12月には特定細胞加工物製造の許可を取得しています。

また、2024年12月にはオリヅルセラピューティクス株式会社と共同で、国立研究開発法人日本医療研究開発機構が公募した令和6年度「再生医療・細胞医療・遺伝子治療産業化促進事業」に採択されたことを発表。研究課題名「iPS細胞由来膵島細胞を用いた1型糖尿病に対する細胞治療の商用製造に向けたプロセス開発」において、S-RACMOは治験製品製造を担うとされています。

株式会社日本バイオセラピー研究所のiPS細胞培養受託事業

株式会社日本バイオセラピー研究所は、2004年5月に設立されました。免疫細胞療法の研究開発と医療支援や免疫研究の技術支援、再生医療研究用の細胞培養受託、免疫細胞療法安全性検査受託などを業務内容としています。

再生医療研究用の細胞培養受託では、脂肪由来幹細胞培養、歯髄由来幹細胞培養、末梢血幹細胞培養、線維芽細胞培養、iPS細胞培養などに対応可能。豊洲と筑波にはそれぞれ特定細胞加工物製造許可を取得した細胞培養加工施設(CPC)があり、細胞培養加工施設の運用や細胞加工を、日本再生医療学会資格である細胞培養加工施設管理士、上級臨床培養士、臨床培養士を中心とした体制で運用しています。

また、現在、フナコシ株式会社(国内・海外のライフサイエンス研究用試薬・機器消耗品・受託サービスを取り扱う専門商社)が販売元、日本バイオセラピー研究所がメーカーとなり、細胞培養受託サービスを展開しています。

CPC株式会社のiPS細胞培養受託事業

研究をする女性

CPC株式会社は2018年7月に設立された、医療機関の再生医療導入サポートや細胞培養受託サービスを提供している企業です。より効果的な再生医療の実現に向けて、東京大学医学部附属病院との共同研究も行っています。

同社の特徴は、東京大学整形外科とパートナー企業との共同研究によって培った組織採取方法や培養方法を用いて、「TOPs細胞®」と名づけられた脂肪由来幹細胞を医療機関に提供していること。お茶の水に特定細胞加工物製造許可を取得した細胞培養加工施設があり、高い技術と豊富な経験を持つ再生医療認定医のもと、専門技術を学んだ培養士が医療機関より預かった脂肪組織の培養に取り組んでいます。

iPS細胞培養受託におけるバイオ技術者に必要なスキル

ここでは、日本バイオセラピー研究所とCPC株式会社を例に細胞培養受託事業におけるバイオ技術者の必要なスキルについて紹介します。

株式会社日本バイオセラピー研究所

株式会社日本バイオセラピー研究所では、再生医療用細胞の品質管理を担当する人を募集しています。求められるスキルなどを以下で紹介します。

【仕事内容】(派遣業務)
再生医療用製品に用いられる細胞の品質管理を行い、主にヒト由来の細胞を扱います。

・各種機器を用いた解析、遺伝子抽出(フローサイトメーター、リアルタイムPCR、ELISA)業務
・微生物関連試験(培養):一部はクリーンルーム内での試験
・実験データのまとめ作業
・実験室の清掃

CPC株式会社

CPC株式会社では、幹細胞治療に関する研究開発リーダー職を募集しています。求められるスキルなどの一部を以下に紹介します。

【求められる経験、スキル】
・細胞培養(特に間葉系幹細胞)の経験
・研究プロジェクトリーダー経験

【歓迎する経験、スキル】
・網羅的遺伝子発現解析、タンパク質発現解析(WB、ELISA)
・フローサイトメーターなどー通りの実験経験
・動物実験経験
・教育経験
・細胞製品の研究開発経験
・再生医療関連の法制度、時事等に精通していること

iPS細胞培養受託が再生医療・創薬研究を加速!

iPS細胞の培養には高度な技術が求められ、その確率と維持には時間がかかることから、iPS細胞培養受託サービスは再生医療や創薬研究に取り組む研究者や企業にとって大きな支えとなっています。

また、再生・細胞医療や遺伝子治療といった分野は、日本政府が積極的に産業化を推進する重要分野と位置付けられています。その一環として、関連する研究には公募による研究開発支援などが行われ、新規参入を後押ししている要因にもなっています。

再生医療や創薬研究の進展に伴い、iPS細胞培養受託事業は今後さらなる成長が期待される分野です。バイオ研究者にとっても注目すべき領域といえるでしょう。