「再生医療」を学ぶには?学び方や大学・大学院の例を紹介!
再生医療は、損傷した組織や器官を幹細胞などを用いて再生・修復を図る革新的な医療分野です。2024年4月に内閣府の再生・細胞医療・遺伝子治療開発協議会が発表した『企業視点からの再生医療の現状課題と解決への道筋』によると、再生医療は「Game Changer」(物事の状況や流れを一変させる存在)と位置づけられています。
Game Changerとして位置付けられている理由として、これまで治せなかった疾患に対する治療法を提供できること、周辺産業も含めた経済成長性、基礎・臨床研究での日本の強みを生かして世界をリードできることなどが挙げられます。
期待が集まる再生医療の分野に携わりたいというバイオ研究者も少なくありません。一方で、どのように学べばよいのか、どのような進路を歩むべきなのか、について明確になっていない方も多いのではないでしょうか。そこで、この記事では、再生医療を学ぶ方法やこの領域をリードする大学について解説します。
監修者プロフィール
日本総合研究所 創発戦略センター コンサルタント「微生物によるバイオプラスチック生産」を対象とした研究開発の経験を活かし、現職では、政府機関・民間企業に対するバイオテクノロジー・バイオマス由来製品の実装に向けた戦略策定支援、カーボンリサイクル/CCU(Carbon Capture and Utilization)技術の実装に向けた産官学連携のコンソーシアムの企画・運営を担当。著書に「図解よくわかる スマート水産業 デジタル技術が切り拓く水産ビジネス(共著)」「図解よくわかる フードテック入門(共著)」(日刊工業新聞社)。
「再生医療」を学ぶ方法
再生医療を学ぶには、大きく分けて2つのルートがあります。
大学の医学部や歯学部で学び「医師免許取得後」に大学院で研究する
再生医療に医師あるいは歯科医師として携わりたい場合、大学では医学部や歯学部で学び、医師免許取得後に大学院で再生医療の専門的な研究を行うのが一般的なルートです。
このルートの場合、医師免許を取得でき、基礎的な医学や生化学の知識もしっかり学ぶことができます。
生命科学部、理工学部、農学部の生命科学学科などから医学系大学院へ進学する
医師免許は必要ないと考えている方は、大学では生命科学部や理工学部、農学部の生命科学学科などで再生医療に関連する基礎知識を学んだ後、医学系大学院へ進学し、再生医療関係の研究室で専門的な研究を行うという方法もあります。
こちらは、再生医療に関する研究に集中したい方などにおすすめです。
上記いずれのルートを選ぶかは医師免許を必要とするかどうかだけでなく、自分が再生医療のどの分野の研究を行いたいのか、どの大学の研究室で研究したいのかとも関係するでしょう。以下では、再生医療に強い大学を3つ紹介します。
再生医療に強い大学1:京都大学
最初に紹介するのは京都大学です。
京都大学は再生医療の研究で世界的に有名な大学です。同大学の山中伸弥教授はiPS細胞の研究で2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞しており、現在もiPS細胞を用いた再生医療の臨床応用や基礎研究に取り組んでいます。山中教授が名誉所長を務める京都大学iPS細胞研究所(CiRA)は、再生医療の最先端拠点として機能しています。
再生医療に関連する学部
京都大学で再生医療に関連する内容を学べる学部をピックアップして紹介します。
医学部 医学科
基礎から最先端まで医学全般を幅広く学び、5~6年生の臨床実習課程では再生医療などの先端医療の臨床を体験できるのが特徴です。
理学部 生物科学専攻
再生医療の基盤技術である細胞や遺伝子などについて深く学ぶことができます。iPS細胞の研究に必要な基礎知識を学び、大学院での研究につなげられるでしょう。
薬学部 薬学科
再生医療の一環として、細胞治療に使われる薬剤やバイオ製品の研究に興味がある場合は、薬学部薬学科が適しているといえます。
関連大学院・研究機関
学部卒業後、より専門的に再生医療を学ぶには以下のような選択肢があります。
➀京都大学iPS細胞研究所 CiRA(サイラ)
「iPS細胞研究所 CiRA(サイラ)」はiPS細胞を中心とした再生医療研究の世界的な拠点であり、山中伸弥教授が所属しています。
➁京都大学大学院 医学研究科 再生医療・臓器再建医学コース
再生医学・再生医療、臓器移植・細胞移植の概念と基本的技術の習得、体性幹細胞、ES細胞、iPS細胞、移植免疫などの最新の研究などについて習得できます。
➂京都大学大学院 生命科学研究科
生命科学の視点から医療応用を目指す研究を行っており、生体内に備わる臓器リモデリング機構を利用した再生医療の技術開発や治療薬開発などを行っています。
➃京都大学大学院 工学研究科
再生医療に応用可能なマイクロ流体デバイスなどの開発研究を行っており、工学的な視点で再生医療を支える技術が学べる環境があります。
再生医療に強い大学2:慶応義塾大学
2つ目に紹介するのは慶応義塾大学です。
慶應義塾大学では特に再生医療分野で実用化を目指す研究が進んでおり、脊髄損傷治療の研究では国内トップクラスの成果を挙げている点が特徴です。同大学再生医療リサーチセンター・センター長である岡野栄之教授を中心に、iPS細胞や幹細胞を活用した研究が進められています。
再生医療に関連する学部
慶応義塾大学で再生医療に関連する内容を学べる学部をピックアップして紹介します。
医学部 医学科
医学全般、人体の基礎などについて学びます。「基礎と臨床一体の医学・医療」を目指し、研究マインドを持った医師(フィジシャン・サイエンティスト)の育成に取り組んでいます。
理工学部 生命情報学科
細胞のシミュレーションやバイオテクノロジーなどに関する知識を深めます。生命の機能やシステムの解明をすることで、再生医療などの応用研究への貢献を目指せる学科です。
理工学部 機械工学科
機械力学、材料力学、流体力学、熱力学などを中心に、実技科目や興味のある選択科目の内容を深めます。工学的なアプローチで再生医療に関する研究に取り組めます。
薬学部 薬学科
再生医療を支える薬学的知識や、細胞治療に必要な薬剤・バイオ製品の開発について学べます。また、生物学や化学を基礎とした幅広い知識を習得し、再生医療への応用研究に貢献できるでしょう。
関連大学院・研究機関
学部卒業後、より専門的に再生医療を学ぶ場合は以下のような方法があります。
➀慶応義塾大学医化学教室
オルガノイド培養技術を軸とし、消化器がんなどの消化器疾患の発生機構・新規治療法の開発などに取り組みます。
➁慶応義塾大学 理工学部 理工学研究科
再生医療機器の開発や天然物ケミカルバイオロジーを基盤とした再生医療の創薬、マイクロ・ナノスケールの微細加工技術を基盤とした再生医療への展開などを目指します。
➂慶應義塾大学再生医療リサーチセンター
再生医療や疾患治療・予防の進歩、発展、および人材育成を通じて、人類の健康増進と福祉の向上に寄与することを目的としています。iPS細胞創薬や再生医療技術の創出、オーダーメード医療の提供などに取り組みます。
再生医療に強い大学3:順天堂大学
最後に紹介するのは、順天堂大学です。
順天堂大学は6つの医学部附属病院を保有しており、再生医療に関する臨床と基礎研究の両面で高い評価を受けています。順天堂医院では、再生医療の取り組みとしてスポーツ外傷・障害などに対する多血小板血漿(PRP)による治療(※1)などを行っています。
※1 血液を利用し、”自分で自分を治す力(自己治癒力)”をサポートする治療法
再生医療に関連する学部
順天堂大学で再生医療に関連する内容を学べる学部をピックアップして紹介します。
医学部 医学科
基礎医学、臨床医学などの授業をとおして医学について学びます。順天堂大学では1年生の医学部附属病院での早期体験実習や、5年生の1年間を通して行う医学部附属病院での臨床実習などが特徴です。
医療科学部 医療検査学科
医療現場での検査や分析などの技術について学びます。細胞や組織の検査技術、再生医療で必要となる細胞検査に取り組みます。
関連大学院・研究機関
学部卒業後、より専門的に再生医療を学ぶ場合は以下のような方法があります。
➀大学院医学研究科 再生医学
再生医療の知見で、新規再生医療の開発に取り組んでいます。研究内容として、自己末梢血単核球生体外培養増幅細胞移植による血管・組織再生治療の開発や、 新規マクロファージ分画による血管再生および創傷治癒機序解明と新規組織再生治療の開発などがあります。
➁健康総合科学先端研究機構 免疫治療研究センター
臓器移植後の拒絶反応を予防する免疫抑制剤は、大切な薬である一方、免疫反応を抑えることに対するリスクもあります。そのため、免疫抑制剤の代わりとなる再生医療等製品「誘導型抑制性T細胞」の製造・開発を目指しています。
➂ゲノム・再生医療研究センター(再生医療研究室)
iPS細胞技術を用いて神経疾患の新しい治療方法の開発に取り組みます。神経発生学の知識とiPS細胞技術などの細胞リプログラミング技術により、再生医療に役立つ細胞の樹立方法や疾患モデルを研究します。
まとめ
再生医療について学ぶには大きく分けて2つのルートがあり、医師免許が必要か否かにより異なります。
また、再生医療の分野は広く、大学によっても研究領域や目的、得意とする分野などには大きな違いがあります。したがって、自身の興味のある領域を定め、「バイオ研究者としてどのように再生医療に関わっていきたいのか」を検討することが大切です。
その上で、自分に適した大学や研究室を探しましょう。