【バイオベンチャー×再生医療】最前線の技術とその可能性に迫る!
「再生医療」とは、ケガや病気によって失ってしまった機能を「薬」ではなく、人間の再生する力によって治療しようとするアプローチの治療法です。従来の治療法では治すことが難しかった希少疾患(対象患者数が国内で5万人未満の病気)や外傷に対して新たな可能性をもたらす分野で、今後の成長が期待されています。
バイオベンチャーにおいても再生医療に取り組む企業は多く、日本の優れたバイオベンチャー企業を紹介している「バイオベンチャー データベース」では292企業のうち、「47企業」が再生医療関連企業として登録されています(2024年10月10日時点)。
この記事では再生医療の概要について説明したのち、実際の再生医療ベンチャー3社を紹介、バイオ研究者として働く際の業務内容などを紹介します。
監修者プロフィール
日本総合研究所 創発戦略センター コンサルタント「微生物によるバイオプラスチック生産」を対象とした研究開発の経験を活かし、現職では、政府機関・民間企業に対するバイオテクノロジー・バイオマス由来製品の実装に向けた戦略策定支援、カーボンリサイクル/CCU(Carbon Capture and Utilization)技術の実装に向けた産官学連携のコンソーシアムの企画・運営を担当。著書に「図解よくわかる スマート水産業 デジタル技術が切り拓く水産ビジネス(共著)」「図解よくわかる フードテック入門(共著)」(日刊工業新聞社)。
再生医療の市場を知る
世界における再生医療の市場規模は、2023年に345億6000万ドル(約5兆1570億円)と評価されています。
そして2024年には421億8000万ドル(約6兆2941億円)、2032年には3,987億7000万ドル(約59兆5050億円)に成長すると予測されるなど、今後大幅な成長が見込まれる分野です。
日本において、体細胞(※1)を利用した再生医療は「白血病治療」や「医療治療」などで以前より行われており、体細胞や間葉系幹細胞(※2)由来の再生医療製品も販売されています。
※2 脂肪組織や骨髄に存在し、歯や骨、脂肪組織などの細胞に分化するもの
京都大学・山中伸弥教授による2007年のiPS細胞の開発と2012年のノーベル生理学医学賞の受賞後、日本政府は政策的にiPS細胞を用いた再生医療の実用化に向けた取り組みを開始。
再生医療の法的枠組みを整備し、国内外に向けてその実用化と普及の促進に努めています。
再生医療市場のキーワード1 「幹細胞」
さまざまな細胞に姿を変える能力を持った細胞を「幹細胞」と呼びます。
神経細胞、筋肉細胞、心臓細胞、血液細胞など、様々な種類の細胞に分化することができ、再生医療や細胞治療の分野で注目されています。
体性幹細胞
体性幹細胞は、いくつかの限定された種類の細胞になることができる幹細胞です。
細胞治療の際にガン化のリスクが低く、最も治療応用が進んでいます。
多能性幹細胞
多能性幹細胞は、からだを構成する全ての組織細胞や生殖細胞に分化することができます。
無限に増殖することができる一方、意図しない細胞に分化するリスクやガン化するリスクがあり、解決するための研究が進められています。
ここでは多能性幹細胞の代表例を2つ紹介します。
- ES細胞
ES細胞は、不妊治療の際に使われない受精卵(余剰胚)を人工的に培養して作られます。他人の受精卵から作る細胞なので、治療の際に免疫拒絶反応の心配や、受精卵を使用することに対する倫理的な問題が挙げられています。 - iPS細胞
iPS細胞は、ヒトの⽪膚から採取した細胞に遺伝⼦を導⼊し、受精卵のような細胞にリセットして⼈⼯的に作られる細胞です。患者自身の細胞を使用するため、免疫拒絶反応の心配をしなくてよいのが特長です。
再生医療市場のキーワード2 「再生医療等製品」
再生医療は、人や動物の生きた細胞や組織を加工(培養、活性化など)して作られた「再生医療等製品」を使って行われます。再生医療等製品は医薬品や医療機器のように使用することが可能で、2023年4月時点で承認されている品目は以下の19種類です。
以降で、再生医療に取り組むベンチャー企業とバイオ研究者の業務内容などを紹介します。
再生医療×ベンチャー企業1「株式会社ジャパン・ティッシュエンジニアリング」
株式会社ジャパン・ティッシュエンジニアリングは「再生医療をあたりまえの医療にする」ことを掲げ、1999年に設立されました。日本で最初の再生医療製品等の自家培養表皮『ジェイス』や、自家培養軟骨『ジャック』の製造販売承認を取得。他にも自家培養角膜上皮『ネピック』なども市場に送り出しています。
また、2021年に大手総合科学メーカーの帝人が株式公開買い付けにより、ジャパン・ティッシュエンジニアリングを子会社化しました。
株式会社ジャパン・ティッシュエンジニアリングの会社概要・事業内容
(1)再生医療製品事業
培養技術を利用した再生医療等製品を開発し、当該開発製品を医療機関向けに医療目的で製造販売
(2)再生医療受託事業
再生医療等製品の開発製造受託および開発業務受託の提供など
(3)研究開発支援事業
蓄積した高度な培養技術を応用し、研究用ヒト培養組織を開発・販売
従業員数:211人(2024年3月31日時点)
株式会社ジャパン・ティッシュエンジニアリングのバイオ研究者求人
2024年10月時点で、同社の採用サイトには具体的に求められるスキルに関する記載はありません。新卒採用においては、バイオ研究者に関する以下のような求人がありました。
再生医療等製品の開発全般に携わる。専攻分野は、理系の全学科が対象
研生産系部門(製造・品質管理・生産管理)
患者様の治療に用いる再生医療等製品の製造、品質検査に携わる。専攻分野は、理系・文系を問わない
信頼性保証部門(品質保証・安全管理)
原材料の調達、製造工程の監査、患者様に使用したあとの使用成績調査、不具合情報の有無の収集などを担当。専攻分野は、理系・文系を問わない
再生医療×ベンチャー企業2「株式会社ヘリオス」
株式会社ヘリオスは、2011年に設立後、2015年6月16日にマザーズへ上場しました。事業としては、細胞医薬品・再生医療等製品の研究・開発・製造を行っています。
加齢性黄斑変性症、代謝性肝疾患、固形がんを対象にiPS細胞再生医薬品を研究開発。さらに、米国企業より骨髄由来幹細胞製品を導入し、急性期脳梗塞および急性呼吸窮迫症候群の臨床試験も行っています。
株式会社ヘリオスの会社概要・事業内容
(1)iPS細胞再生医薬品
加齢性黄斑変性症、代謝性肝疾患、固形がんを対象とした治療法の開発
(2)体性幹細胞再生医薬品
幹細胞製品を用いた急性期脳梗塞および急性呼吸窮迫症候群に関する臨床試験
従業員数:60人(2024年3月末時点)
株式会社ヘリオスのバイオ研究者求人
2024年10月現在、募集中の求人はありません。
出典:株式会社ヘリオス
再生医療×ベンチャー企業3「株式会社ケイファーマ」
株式会社ケイファーマは、2016年設立の慶應義塾大学医学部発ベンチャー企業で、iPS創薬と再生医療の2本柱で事業を展開しています。大学病院などとのネットワークを活用した「産学連携モデル」を推進していることが特徴です。
大学での研究を基に、脊髄損傷の患者へiPS細胞を使用した再生医療やALS(筋萎縮性側索硬化症)の治療薬を開発。2023年10月17日、東証グロース市場に上場しました。
株式会社ケイファーマの会社概要・事業内容
(1)iPS創薬事業
患者の細胞から作ったiPS細胞を使用して「疾患特異的iPS細胞」をつくり、治療法や治療薬を研究開発
(2)再生医療事業
脊髄損傷や脳梗塞などの神経領域の再生医療に取り組み、神経再生技術の実用化を目指す
従業員数:15 人
株式会社ケイファーマバイオ研究者求人
以下、2つの職種で求人を出していました。
・iPS細胞からの分化誘導、機能評価、また細胞培養の経験者(iPS細胞の培養技術は未経験でも可)
・各種細胞を用いた低分子化合物スクリーニングや疾患メカニズム解析等、創薬研究の経験者
応募条件:大学院博士課程(Ph.D.)または博士課程の修了者。大学等の研究機関または製薬企業等で、5年以上の細胞培養経験者
・iPS細胞からの分化誘導、機能評価、また細胞培養の経験者(iPS細胞の培養技術は未経験でも可)
・マウス、ラットの脊髄損傷モデルでの機能評価、あるいは各種病態モデル動物での機能評価の経験者
応募条件:大学院博士課程(Ph.D.)または博士課程の修了者。大学等の研究機関または製薬企業等で、5年以上の細胞培養経験者
出典:株式会社ケイファーマ
まとめ
再生医療は現在急速に発展している分野であり、今後もますます市場の拡大が期待できる分野です。再生医療によってこれまで治療が難しかった希少疾患などへのアプローチも可能になるため、研究者として非常にやりがいのある領域と言えるでしょう。
再生医療ベンチャーでの就職は、最先端の領域で新しい技術に触れながら活躍したい人におすすめです。