国内バイオベンチャー10社紹介!事業内容からバイオ研究者の求人まで

バイオ研究者が就職・転職先を検討する際、「バイオベンチャー」を選択肢の1つとして考えている方もいるでしょう。ベンチャー企業には「成果を出せれば昇給・昇格のスピードが早い」「与えられる裁量権が大きい」といった魅力がある一方、企業の安定性は気になる点かもしれません。

企業の安定性を図る際の指標の1つに、上場の有無があります。もちろん、未上場でも安定経営を実践している企業はありますが、上場企業は社内体制(コーポレートガバナンス)の構築において一定の審査基準をクリアしているため、「資金調達力がある」「社会的信用度が高い」などのメリットもあります。

この記事では、国内注目のバイオベンチャーの中から10企業をピックアップ。各企業の事業内容や取り組み、バイオ研究者の求人内容や必要スキルなど、バイオベンチャーの傾向を探ります。

監修者プロフィール

福山篤史氏
日本総合研究所 創発戦略センター コンサルタント「微生物によるバイオプラスチック生産」を対象とした研究開発の経験を活かし、現職では、政府機関・民間企業に対するバイオテクノロジー・バイオマス由来製品の実装に向けた戦略策定支援、カーボンリサイクル/CCU(Carbon Capture and Utilization)技術の実装に向けた産官学連携のコンソーシアムの企画・運営を担当。著書に「図解よくわかる スマート水産業 デジタル技術が切り拓く水産ビジネス(共著)」「図解よくわかる フードテック入門(共著)」(日刊工業新聞社)。
福山篤史氏

日本国内のバイオベンチャーの変遷

日本では長く「バイオベンチャーが育たない」と言われてきた歴史があり、欧米に比べて大きく後れを取る状態が続いてきました。

厚生労働省が主催した有識者懇談会(2016年時点)の報告書では、その原因は資金や人材の不足、規制に関する課題があると指摘されています。

その後、日本でもようやくバイオベンチャーの振興が推進され、2017年には厚生労働省において「ベンチャー等支援戦略室」が新設されました。さらに、同年から「ジャパン・ヘルスケアベンチャー・サミット」が開催されるようになり、バイオベンチャーを取り巻くエコシステム(※)の醸成が進んできました。
※企業や顧客をはじめとする多数の要素が集結し、分業と協業による共存共栄の関係を指す

2019年以降は製薬会社とバイオベンチャーの間で大型提携の動きなどがあり、近年では医薬品や医療機器開発、再生医療といった「ライフサイエンス分野」が政府の成長戦略において「成長産業」に位置付けられるなど、その重要性は増す一方です。

特にライフサイエンス分野では近年、多くのベンチャー企業が東京証券取引所において上場しています。ここでは、バイオベンチャー10社を紹介します。

1.国内培地製造のリーディングカンパニー「コージンバイオ株式会社」

コージンバイオ株式会社は、再生医療や免疫療法の研究用途で使用される無血清培地(※1)をはじめとする「組織培養用培地」を開発、製造、販売しています。他にも、体外診断用医薬品、細胞培養用培地の製造・販売や、細胞加工の受託などを行っています。コージンバイオ株式会社は、2024年4月に東京証券取引所グロース市場へ上場しました。

※1 培地とは微生物や細胞の培養に用いる生育環境のことで、無血清培地とは細胞培養時に血清を用いない培地を指す

コージンバイオ株式会社の事業概要

1981年、コージン株式会社は動物血液・細菌検査用培地の製造、販売を目的に設立し、1986年には細胞培養用培地の製造を開始、その後1989年6月に現在のコージンバイオ株式会社へ商号変更しました。以降は、「化粧品製造業・製造販売業の許可」と「医療機器製造業・製造販売業」の許可を取得し、徐々に事業の幅を広げています。

コージンバイオ株式会社の募集求人

従業員数が182名(2024年3月時点)というコージンバイオ株式会社の求人では、新卒・中途ともに出身学部を問わず幅広く、培地やバイオ試薬、診断薬の研究・開発・製造、細胞加工業務に携わる研究技術職を新卒・中途ともに募集しています。

中途採用に関しては管理職候補の求人もあり、応募資格・条件として、リーダーとしてチームなどの統率経験に加えて、「細胞培養関連業務の経験」「細胞加工施設内での作業経験」「『再生医療等安全性確保法』、GMP・GCTPに関する経験・知識」「バイオ領域企業で研究・開発・製造に関わっていた方」のいずれかに該当する方です。

参考:コージンバイオ株式会社 HP

2.感染症の迅速診断キットのトップランナー「株式会社タウンズ」

株式会社タウンズは1987年に設立された、創業30年以上の体外診断用医薬品メーカーです。感染症の迅速診断キットの開発・製造・販売などを事業展開し、2024年6月に東京証券取引所スタンダード市場へ新規上場しました。

株式会社タウンズの事業概要

さまざまな診断技術を応用した体外診断用医薬品と研究用試薬を製造し、国内外へ販売。診断キットはインフルエンザウイルス、アデノウイルス、RSウイルス、溶連菌に対応しており、2020年10月には新型コロナウイルス抗原検査キット「イムノエース®SARS-CoV-2」を発売しました。

3つのコア技術「検出プラットフォーム」「抗体創出技術」「高感度検出技術」をベースとして、新たな診断領域への展開と検査技術開発に取り組んでいます。また、産官学連携や異業種連携によるオープンイノベーションで、新たな検査サービスの在り方を追求しています。

株式会社タウンズの募集求人

従業員数が329名(パート含む人数 2024年8月時点) という株式会社タウンズの求人では、遺伝子関連技術や化合物の合成・精製業務なども含めた多岐にわたる業務に取り組む「開発部門」や、各種規則に適合した製品を提供するための徹底した品質管理を行う「品質管理部門」などで新卒・中途の人材を募集しています。 研究開発部での中途採用では、必要スキル・経験として「衛生管理者資格」が必須であり、さらに「3年以上の研究・開発経験」が求められています。

参考:株式会社タウンズ

3.がん領域の研究開発に特化「Chordia Therapeutics株式会社」

Chordia Therapeutics株式会社は2017年に設立されたスタートアップ企業で、がん領域の研究開発に特化したバイオベンチャーです。2024年6月、東京証券取引所グロース市場へ新規上場しました。

Chordia Therapeutics株式会社の事業概要

「First in Class(※1) 抗がん薬を創る」を会社のミッションに掲げ、長年にわたり創薬に携わってきたプロフェッショナルたちが、研究開発の各分野における経験と専門スキルを活かし、がん治療で使用する新薬の開発に日々取り組んでいます。

第一段階の治験がスタートした治療薬「CLK 阻害薬 CTX-712」は、スプライシング(※2)を変化させることでがん細胞を死滅させるという、これまでにない新しい作用機序を有していると言います。

※1 各カテゴリーの医薬品の中で最初に認可された新薬のこと。これまでになかった化学構造や治療コンセプトであることが多く、一般的に開発難易度が高いとされる
※2 転写直後の前駆体RNAからイントロンを切断除去し、エクソンのみからなる成熟型RNAにする過程のこと
出典:森北出版「化学辞典(第2版)」

Chordia Therapeutics株式会社の募集求人

従業員数21名(2023年6月時点)というChordia Therapeutics株式会社の求人では、マネジメント部門、研究開発部門などで人材を募集しています。採用ページでは具体的な応募条件や必要スキルなどの記載は確認できませんでしたが、既存スタッフは、前職で既に製薬会社で創薬研究などに関わっていた人材が多いようです。

設立から約7年のスタートアップベンチャーで少数精鋭のスタッフで取り組んでいることなどから、シニア研究員などの即戦力となる人材が求められていると予想されます。

参考:Chordia Therapeutics株式会社

4.iPS細胞を用いた心筋再生医療に取り組む「Heartseed株式会社」

2015年に設立されたHeartseed株式会社は、「再生医療で心臓病治療の扉を拓く」というミッションを掲げ、iPS細胞を用いた心筋再生医療に取り組んでいるバイオベンチャーです。2024年7月に東京証券取引所グロース市場へ新規上場しました。

Heartseed株式会社の事業概要

失われてしまった心臓の組織は元に戻ることはなく、心臓移植しか根治の可能性はないという「心不全」に対して、同社は、iPS細胞から心臓の細胞を作製して心臓組織に移植する治療方法を開発。現在は、iPS細胞を用いた心筋再生医療の臨床応用に向けて取り組んでいます。

Heartseed株式会社の募集求人

従業員数39名(2024年5月時点)というHeartseed株式会社の求人では、臨床開発、製造管理、基礎研究の各部門で担当者から管理職(マネージャー、リーダー)まで募集しています。

採用ページでは具体的な応募条件や必要スキルなどの記載は確認できませんでしたが、「臨床開発部門」では臨床開発の計画から立ち上げ、実行、海外展開など幅広い業務に対応。「製造技術開発部門」では細胞の製造・培養・品質管理に関するマネジメント業務。「基礎研究部門」では、再生医療事業での製造や培養技術以外にも、次世代パイプラインの研究などに対応する必要があり、各部門とも幅広い業務に対応できるスキルが求められる印象を受けます。

参考:Heartseed株式会社

5.ゲノム大規模構築技術で細胞の可能性を最大化する「株式会社Logomix」

株式会社Logomixは、ヒト幹細胞など様々な生物種の細胞機能を効率よく設計・改変する細胞エンジニアリング企業です。2019年7月に設立された東京工業大学発のバイオベンチャーで、ゲノムを大規模に構築する技術「Geno-Writing™」をコア技術としています。

株式会社Logomixの事業概要

同社は、産業に有用な細胞を創製するためのゲノム大規模構築技術プラットフォーム「Geno-Writing™」の開発・運営を行っています。この技術は、創薬やバイオものづくりにおける課題解決につながる高機能細胞を開発するために提供されており、製薬企業や化学・素材系企業など幅広い業種の企業と協業を推進しています。また、米国事業を加速させるなど、グローバルな事業展開も進めています。

株式会社Logomixの募集求人

株式会社Logomixでは、事業拡大に伴い、創薬研究員、分子生物学研究員、培養プロセス研究員、技術員など、様々な職種で募集を行っています。特に、ゲノム編集やiPS細胞に関する経験を持つ研究者を積極的に採用しています。また、経営幹部候補(CxO候補)や管理職候補のポジションもあり、これまでの経験やスキルに応じて柔軟なポジションを検討しています。

参考:株式会社Logomix

6.慶應義塾大学発、iPS創薬でALSなど神経難病に挑む「株式会社ケイファーマ」

株式会社ケイファーマは、慶應義塾大学医学部発の創薬ベンチャー企業です。神経難病である筋萎縮性側索硬化症(ALS)や脊髄損傷など、アンメット・メディカル・ニーズの充足を目指し、iPS細胞技術を活用した創薬研究と再生医療に取り組んでいます。

株式会社ケイファーマの事業概要

株式会社ケイファーマは、慶應義塾大学医学部生理学教室(当時)の岡野栄之教授、同整形外科学教室の中村雅也教授、そして代表取締役の福島弘明氏の3名によって2016年11月に設立されました。同社は「医療イノベーションを実現し、医療分野での社会貢献を果たす」ことを経営理念に掲げ、再生医療および創薬の研究開発を通じて、一刻も早く患者に有効な医薬品を提供することを目指しています。

株式会社ケイファーマの募集求人

株式会社ケイファーマでは、有効な治療法がない疾患に対し、挑戦する志を持つ仲間を募集しています。具体的な募集職種は公式サイトの採用情報ページに掲載されており、以下の職種が例として挙げられます。

•研究職(iPS創薬、再生医療関連)
•臨床開発職
•薬事職
•品質管理・品質保証職

世界中の患者のために、すべての人の健康のために、アントレプレナーシップをもって、同社と共に挑戦する人材を求めています。

参考:株式会社ケイファーマ

7.低分子医薬品創出を支援する創薬ベンチャー「株式会社SEEDSUPPLY」

株式会社SEEDSUPPLYは、2017年に武田薬品工業株式会社からスピンアウトした創薬ベンチャーです。独自の「改良型アフィニティーセレクション質量分析法(ASMS)」を核としたバインダーセレクション技術を用いて、低分子医薬品の創出を支援する事業を展開しています。神奈川県藤沢市の湘南ヘルスイノベーションパークに拠点を構え、国内外の製薬企業やアカデミアと連携しています。

株式会社SEEDSUPPLYの事業概要

初期創薬研究の推進に貢献する2つのサービスを提供しています。1つは結合化合物のスクリーニングで、もう1つは結合タンパク質のスクリーニングです。

タンパク質と化合物との結合を高感度かつ簡便に検出する当社独自の技術を活用しています。結合化合物スクリーニングのサービスでは、本技術を使用してスクリーニングを実施し、ターゲットタンパク質に結合する化合物を提供します。一つの方法で、あらゆるタイプのターゲットタンパク質に対してスクリーニングを実施できます。

結合タンパク質スクリーニングのサービスでは、タンパク質ライブラリから、ある特定の化合物に結合するタンパク質を選別します。当社のタンパク質ライブラリは、可溶性タンパク質から膜タンパク質まで幅広いタンパク質をカバーしています。このサービスは、ターゲット同定とドラッグリポジショニングに有効です。

株式会社SEEDSUPPLYの募集求人

株式会社SEEDSUPPLYでは、事業拡大に伴い、創薬研究員、テクニシャン、セールス担当者などを募集しています。特に、遺伝子組換え実験やタンパク質発現・精製などの経験を持つ研究職の需要が高いようです。応募資格としては、関連分野での実務経験や専門知識が求められます。

参考:株式会社SEEDSUPPLY

8.微生物の可能性を解き放ちバイオエコノミーを実現する「bitBiome株式会社」

bitBiome株式会社は、地球上に生息するあらゆる微生物のゲノム情報を解読し、その可能性を最大限に引き出すことで、脱炭素・循環型社会やヘルスケアへの貢献を通じたバイオエコノミーの実現を目指す企業です。2018年11月7日に設立され、東京都新宿区に本社を構えています。

bitBiome株式会社の事業概要

同社は、独自の微生物シングルセルゲノム解析技術「bit-MAP®」を用いて、未培養微生物や極限環境微生物などユニークな微生物由来の20億を超える遺伝子を収集し、世界最大級の微生物ゲノムデータベース「bit-GEM」を構築しています。このbit-GEMと酵素探索・改変プラットフォーム「bit-QED」を活用し、以下の3つの主要な事業を展開しています。

Enzyme Discovery & Engineering Service(酵素探索・改変サービス): bit-GEMとバイオインフォマティクス技術、AI、ラボオートメーションを駆使し、最適な遺伝子の発見と改良を迅速に実現。クライアントの研究開発課題解決に貢献します。

SynBio Applications(合成生物学アプリケーション): bit-GEMとbit-QEDを用いて、SDGs(プラスチック分解酵素の開発など)やヘルスケア(AMR対策のエンドライシン開発など)に貢献する自社開発も行っています。

Next-Generation Sequencing (NGS) Service(次世代シーケンス受託解析サービス): 腸管、皮膚、口腔、土壌、海洋など様々な環境の微生物を対象としたシングルセルゲノム解析や、ショートリード・ロングリードシーケンサーを活用した受託解析サービスを提供しています。

bitBiome株式会社の募集求人

主な募集職種は、合成生物学・酵素を用いたプラスチック分解に関する研究員、微生物ゲノム解析事業に関するプロジェクトマネージャー・品質管理担当者、バイオインフォマティクス研究員などが挙げられます。
応募資格は関連分野での博士号、修士号、学士号、または企業・大学での関連研究経験が求められる傾向にあります。

参考:bitBiome株式会社

9.生殖細胞技術で新たな可能性を創造する「株式会社Dioseve」

株式会社Dioseveは、不妊治療分野において、世界最高水準の生殖細胞技術を用いて、加齢に伴う卵子や精子の機能低下、妊娠・出産可能性の低下といった課題に革新的なソリューションを提供する企業です。

株式会社Dioseveの事業概要

同社は、独自の分化誘導技術により、iPS細胞から卵母細胞および卵巣体細胞を高効率で誘導する「PLATFORM」技術を核としており、これまで解決策のなかった課題へのソリューション提供を目指しています。

株式会社Dioseveの募集求人

株式会社Dioseveでは、事業拡大に伴い、Principal Scientist、Senior Scientist / Scientist、Research Associate、QC/QA、CMC、Developmentなど、様々な職種で人材を募集しています。

参考:株式会社Dioseve

10.遺伝子解析技術で個別化医療に貢献する「株式会社DNAチップ研究所」

株式会社DNAチップ研究所は、DNAチップ関連の研究とその成果に基づいた製品・サービスを提供する企業です。2025年6月からは三井化学株式会社のグループ会社となっています。

株式会社DNAチップ研究所の事業概要

事業は「研究受託」「診断」「製品」の3つを柱としており、研究受託事業では次世代シークエンサーを用いた多様な遺伝子解析サービスを提供。診断事業では、肺がんの遺伝子変異検査や関節リウマチの薬剤効果予測など、個別化医療に対応した検査を手掛けています。また、法医学分野で使用されるゲノムDNA抽出キットなども取り扱っています。

株式会社DNAチップ研究所の募集求人

研究開発補助、臨床検査業務担当者、ラボマネージメント人材、バイオインフォマティクスIT人材、遺伝子診断事業(営業員)などの職種で募集を行っています。各職種において分子生物学や生命科学に関連する専門知識・実務経験が求められます。フレックスタイム制の導入や年間休日125日(2024年度実績)など、柔軟な働き方が可能な環境が整備されています。

参考:株式会社DNAチップ研究所

まとめ

近年、医薬品や医療機器開発、再生医療をはじめライフサイエンス分野でバイオベンチャーの上場が相次いでいます。

今回紹介した企業も、再生医療や感染症の迅速診断キット、がん治療に対する新薬の開発、iPS細胞などを用いた心筋再生医療などに取り組むライフサイエンス分野の企業です。

今回紹介したような最先端のバイオテクノロジーを活用したチャレンジングな研究・開発に携わりつつ、「就職・転職では企業の安定性も考慮したい」という方は、上場を果たしたバイオベンチャー企業を視野に入れてみてはいかがでしょうか?