バイオ研究者が就職・転職先を検討する際、「バイオベンチャー」を選択肢の1つとして考えている方もいるでしょう。ベンチャー企業には「成果を出せれば昇給・昇格のスピードが早い」「与えられる裁量権が大きい」といった魅力がある一方、企業の安定性は気になる点かもしれません。
企業の安定性を図る際の指標の1つに、上場の有無があります。もちろん、未上場でも安定経営を実践している企業はありますが、上場企業は社内体制(コーポレートガバナンス)の構築において一定の審査基準をクリアしているため、「資金調達力がある」「社会的信用度が高い」などのメリットもあります。
この記事では、2024年に上場したバイオベンチャーの中から4企業をピックアップ。各企業の事業内容や取り組み、バイオ研究者の求人内容や必要スキルなどを紹介したのち、今年上場を果たしたバイオベンチャーの傾向を探ります。
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日本では長く「バイオベンチャーが育たない」と言われてきた歴史があり、欧米に比べて大きく後れを取る状態が続いてきました。
厚生労働省が主催した有識者懇談会(2016年時点)の報告書では、その原因は資金や人材の不足、規制に関する課題があると指摘されています。
その後、日本でもようやくバイオベンチャーの振興が推進され、2017年には厚生労働省において「ベンチャー等支援戦略室」が新設されました。さらに、同年から「ジャパン・ヘルスケアベンチャー・サミット」が開催されるようになり、バイオベンチャーを取り巻くエコシステム(※)の醸成が進んできました。
※企業や顧客をはじめとする多数の要素が集結し、分業と協業による共存共栄の関係を指す
2019年以降は製薬会社とバイオベンチャーの間で大型提携の動きなどがあり、近年では医薬品や医療機器開発、再生医療といった「ライフサイエンス分野」が政府の成長戦略において「成長産業」に位置付けられるなど、その重要性は増す一方です。
特にライフサイエンス分野では近年、多くのベンチャー企業が東京証券取引所において上場しています。ここでは、2024年に上場を果たしたバイオベンチャー4社を紹介します。
コージンバイオ株式会社は、再生医療や免疫療法の研究用途で使用される無血清培地(※1)をはじめとする「組織培養用培地」を開発、製造、販売しています。他にも、体外診断用医薬品、細胞培養用培地の製造・販売や、細胞加工の受託などを行っています。コージンバイオ株式会社は、2024年4月に東京証券取引所グロース市場へ上場しました。
※1 培地とは微生物や細胞の培養に用いる生育環境のことで、無血清培地とは細胞培養時に血清を用いない培地を指す
1981年、コージン株式会社は動物血液・細菌検査用培地の製造、販売を目的に設立し、1986年には細胞培養用培地の製造を開始、その後1989年6月に現在のコージンバイオ株式会社へ商号変更しました。以降は、「化粧品製造業・製造販売業の許可」と「医療機器製造業・製造販売業」の許可を取得し、徐々に事業の幅を広げています。
従業員数が182名(2024年3月時点)というコージンバイオ株式会社の求人では、新卒・中途ともに出身学部を問わず幅広く、培地やバイオ試薬、診断薬の研究・開発・製造、細胞加工業務に携わる研究技術職を新卒・中途ともに募集しています。
中途採用に関しては管理職候補の求人もあり、応募資格・条件として、リーダーとしてチームなどの統率経験に加えて、「細胞培養関連業務の経験」「細胞加工施設内での作業経験」「『再生医療等安全性確保法』、GMP・GCTPに関する経験・知識」「バイオ領域企業で研究・開発・製造に関わっていた方」のいずれかに該当する方です。
株式会社タウンズは1987年に設立された、創業30年以上の体外診断用医薬品メーカーです。感染症の迅速診断キットの開発・製造・販売などを事業展開し、2024年6月に東京証券取引所スタンダード市場へ新規上場しました。
さまざまな診断技術を応用した体外診断用医薬品と研究用試薬を製造し、国内外へ販売。診断キットはインフルエンザウイルス、アデノウイルス、RSウイルス、溶連菌に対応しており、2020年10月には新型コロナウイルス抗原検査キット「イムノエース®SARS-CoV-2」を発売しました。
3つのコア技術「検出プラットフォーム」「抗体創出技術」「高感度検出技術」をベースとして、新たな診断領域への展開と検査技術開発に取り組んでいます。また、産官学連携や異業種連携によるオープンイノベーションで、新たな検査サービスの在り方を追求しています。
従業員数が329名(パート含む人数 2024年8月時点) という株式会社タウンズの求人では、遺伝子関連技術や化合物の合成・精製業務なども含めた多岐にわたる業務に取り組む「開発部門」や、各種規則に適合した製品を提供するための徹底した品質管理を行う「品質管理部門」などで新卒・中途の人材を募集しています。 研究開発部での中途採用では、必要スキル・経験として「衛生管理者資格」が必須であり、さらに「3年以上の研究・開発経験」が求められています。
参考:株式会社タウンズ
Chordia Therapeutics株式会社は2017年に設立されたスタートアップ企業で、がん領域の研究開発に特化したバイオベンチャーです。2024年6月、東京証券取引所グロース市場へ新規上場しました。
「First in Class(※1) 抗がん薬を創る」を会社のミッションに掲げ、長年にわたり創薬に携わってきたプロフェッショナルたちが、研究開発の各分野における経験と専門スキルを活かし、がん治療で使用する新薬の開発に日々取り組んでいます。
第一段階の治験がスタートした治療薬「CLK 阻害薬 CTX-712」は、スプライシング(※2)を変化させることでがん細胞を死滅させるという、これまでにない新しい作用機序を有していると言います。
※1 各カテゴリーの医薬品の中で最初に認可された新薬のこと。これまでになかった化学構造や治療コンセプトであることが多く、一般的に開発難易度が高いとされる
※2 転写直後の前駆体RNAからイントロンを切断除去し、エクソンのみからなる成熟型RNAにする過程のこと
出典:森北出版「化学辞典(第2版)」
従業員数21名(2023年6月時点)というChordia Therapeutics株式会社の求人では、マネジメント部門、研究開発部門などで人材を募集しています。採用ページでは具体的な応募条件や必要スキルなどの記載は確認できませんでしたが、既存スタッフは、前職で既に製薬会社で創薬研究などに関わっていた人材が多いようです。
設立から約7年のスタートアップベンチャーで少数精鋭のスタッフで取り組んでいることなどから、シニア研究員などの即戦力となる人材が求められていると予想されます。
2015年に設立されたHeartseed株式会社は、「再生医療で心臓病治療の扉を拓く」というミッションを掲げ、iPS細胞を用いた心筋再生医療に取り組んでいるバイオベンチャーです。2024年7月に東京証券取引所グロース市場へ新規上場しました。
失われてしまった心臓の組織は元に戻ることはなく、心臓移植しか根治の可能性はないという「心不全」に対して、同社は、iPS細胞から心臓の細胞を作製して心臓組織に移植する治療方法を開発。現在は、iPS細胞を用いた心筋再生医療の臨床応用に向けて取り組んでいます。
従業員数39名(2024年5月時点)というHeartseed株式会社の求人では、臨床開発、製造管理、基礎研究の各部門で担当者から管理職(マネージャー、リーダー)まで募集しています。
採用ページでは具体的な応募条件や必要スキルなどの記載は確認できませんでしたが、「臨床開発部門」では臨床開発の計画から立ち上げ、実行、海外展開など幅広い業務に対応。「製造技術開発部門」では細胞の製造・培養・品質管理に関するマネジメント業務。「基礎研究部門」では、再生医療事業での製造や培養技術以外にも、次世代パイプラインの研究などに対応する必要があり、各部門とも幅広い業務に対応できるスキルが求められる印象を受けます。
近年、医薬品や医療機器開発、再生医療をはじめライフサイエンス分野でバイオベンチャーの上場が相次いでいます。
今回紹介した「2024年に上場を果たした企業4社」も、再生医療や感染症の迅速診断キット、がん治療に対する新薬の開発、iPS細胞などを用いた心筋再生医療などに取り組むライフサイエンス分野の企業です。
今回紹介したような最先端のバイオテクノロジーを活用したチャレンジングな研究・開発に携わりつつ、「就職・転職では企業の安定性も考慮したい」という方は、上場を果たしたバイオベンチャー企業を視野に入れてみてはいかがでしょうか?