バイオ研究者が就職・転職する際に重視する要素には「研究内容」や「やりがい」などがありますが、「年収」もその1つでしょう。
特に「バイオベンチャー」での就職・転職を検討されている方にとって、バイオベンチャーでの年収の実態について気になる方も多いのではないでしょうか。
本記事では、創薬・製薬分野のバイオテクノロジー技術者の年収の傾向と、バイオベンチャーで働く場合の年収の実態、さらに年収アップの方法について解説します。
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最初にバイオテクノロジー技術者の年収の傾向と、バイオ分野に限らずに「ベンチャー企業」における年収の傾向について確認します。
バイオテクノロジー技術者の年収を日本人の平均年収と比較した場合、どのような傾向があるのでしょうか。
バイオテクノロジー技術者の全国平均年収は、2023年時点で「586.8万円」でした。一方、日本人の平均年収(2022年)は「458万円」で、雇用形態別では正社員が「523万円」、正社員以外は「201万円」となっています。
※1 出典:厚生労働省「職業情報提供サイト」
※2 出典:国税庁「民間給与実態統計調査(令和4年分)」
上記の数字を比較すると、バイオテクノロジー技術者の年収は日本人の平均年収より高いといえます。ただし、年齢や職種により年収は異なることは留意が必要です。
バイオ分野に限らない「ベンチャー企業」の年収は、業界や企業規模、成長性、職種、地域などによりさまざまです。「ベンチャー企業だから年収が低い・高い」と一律に判断することはできません。
一方で、ベンチャー企業では自社の成長性に応じて従業員の年収が高くなる傾向にあります。そのため、ベンチャー企業への就職・転職を検討している場合には「企業の成長性」を確認するのが重要なポイントになるでしょう。
また、一般的にベンチャー企業に入社したばかりの従業員の年収は、同時期に大企業に入社した人の年収と比べて低い傾向にあります。
しかし、ベンチャー企業の多くが「実力主義」の人事制度を採用していることから、スキルを磨き、実績を残せれば大企業より早く昇給できることも少なくありません。入社当初の年収だけで判断するのではなく、数年単位の見通しで考えることが大切です。
バイオテクノロジー技術者の年収は日本人の平均年収より高いこと、そしてベンチャー企業で働く場合には、職種や地域などの自身の働く環境や会社の成長性などによって平均年収にも幅があることが分かりました。
さらにここでは、一般的な創薬・製薬会社でバイオ研究者が働く場合の年収の傾向を確認した上で、バイオベンチャーで働く場合の年収の実態について紹介します。
一般的な製薬会社における平均年収(全世代)は、研究開発職で「約550万円」、品質管理職で「約445万円」といわれており、50代までは年齢が上がるにつれて平均年収も高くなる傾向です。
新しい薬を開発・製品化する過程では、研究開発や品質管理などの多くの試験や法的規制をクリアする必要があります。そのため、創薬・製薬分野のバイオテクノロジー研究者には高度な専門知識と技術が欠かせません。また、人々の安全性に関わる大きな責任とプレッシャーが伴うのもこの職種の特徴です。
これらの理由から、創薬・製薬分野のバイオ研究者の年収は高い傾向にあると考えられます。
近年、新薬の多くはベンチャー企業から生み出されているといいます。 例えば、米・ファイザー社の協力のもと、コロナワクチンの開発に最初に成功したのも、創薬ベンチャーの独・ビオンテック 社だったのは記憶に新しいところです。
日本でも、創薬・製薬分野のバイオベンチャーは注目されている領域です。日本の優れたバイオベンチャーを紹介する目的で作られた「バイオベンチャーデータベース (※3)」によると、「医薬品/創薬」「創薬支援/受託サービス」の分野・業種での登録が大半を占め、登録企業全体(285件)のうち「196件」にものぼります。
※3 一般財団法人バイオインダストリー協会および特定非営利活動法人 近畿バイオインダストリー振興会議が共同で作成・運営しているデータベース
創薬・製薬ベンチャーにおける具体的業務としては、「創薬研究」や「品質管理/品質保証」などが挙げられます。
前述のとおり、ベンチャー企業での年収は職種や地域などの自身の働く環境や会社の成長性などに左右されますが、ベンチャー企業においても一般企業と同様、高度な技術や知識が必要な創薬・製薬分野の年収は全体的に高い傾向にあります。
実際にバイオベンチャーが出している求人の年収の一例は、以下のとおりです。
バイオベンチャーで働く中で年収をアップさせたい場合には、どのような方法があるのでしょうか。その一例を紹介します。
創薬・製薬分野以外も含むベンチャー企業全体の特徴として、年功序列ではなく実力主義の傾向が強く、大企業より昇給・昇格のスピードが速い点が挙げられます。
そのため、会社へ積極的に貢献することで、入社後数年でリーダーに抜擢されたり、求められる役割が増えて年収が数十万単位でアップしたりするのは珍しいことではありません。実力をつけてより上の役職への昇格などを目指しましょう。
より上の役職を目指す上では、バイオ研究者として実験技術やデータ分析などのスキル向上に加えて、コミュニケーションスキルやマネジメント能力を高めていくことも必要です。
バイオ領域における今後のトレンドやニーズに適応できるように、自身のスキルアップを図ります。
バイオ研究者として今後身につけていきたいスキルの1つは、ITなどのテクノロジーの進化に伴い求められるようになった「情報解析能力」です。
従来、バイオ領域の研究開発はいわゆる「wet系」が主流でした。実際に研究者が細胞や微生物を使って実験を行い、仮説を立て、それを証明するために一つひとつの実験を繰り返すのが「wet研究」です。しかし、この方法を実践するには膨大な時間がかかります。
それに対して、2000年以降活発に行われるようになった「ヒトゲノム計画(※4)」により、生命現象をコンピューターを使って解析、研究する最先端の領域「バイオインフォマティクス」が新たに生まれました。こちらの方法は「dry研究」と呼ばれます。これからのバイオ研究においては、収集した膨大なデータを読み解くスキルを持つ「dry系」の研究者が必要とされています。
※4 1990年に米国を中心に進められた国際共同研究で、3,000億円もの膨大な費用と10年以上の歳月をかけて、ヒト一人分のDNA情報を網羅しようというもの
前述のとおり、バイオテクノロジー技術者の全国平均年収は、2023年時点で「586.8万円」ですが、創薬ベンチャーでのバイオインフォマティシャンでは年収1,000万円前後を目指せます。
バイオベンチャー企業は少数精鋭の従業員で構成されていることも多く、企業の成長がダイレクトに従業員の年収に反映されやすい傾向があります。
そのため、新薬開発など企業が取り組む研究への貢献や、バイオ研究者としてのスキルアップ、新しい技術を積極的に採用したり社内共有したりするなど、企業の成長につながる取り組みを行うことで、結果的に自身の年収アップを実現できる可能性が高まるでしょう。
創薬・製薬分野のバイオ研究者の年収は全国平均に比べて一般企業、バイオベンチャーともに高い傾向にありますが、バイオベンチャーは働く地域や企業規模、企業の成長性などにより年収に幅があります。
バイオベンチャーにおいて年収アップを狙う場合には、年功序列ではなく実力主義で評価されることが多いベンチャー企業の特徴を踏まえ、自身のスキルを磨き、会社へ貢献することで昇給の可能性が高まるでしょう。