【バイオテクノロジー業界研究④】生物由来の燃料が脱炭素社会に導く?~環境・エネルギー分野編~

人類の日常生活や経済活動に欠かせない化学製品(ケミカル)はとても便利な反面、将来を見据えたサステナブルな使用には限界があることも問題視されています。その解決策として環境・エネルギー分野におけるバイオテクノロジーが注目されています。バイオに根差した取り組みは、人類の平穏な暮らしに貢献できる可能性が高いと言えるからです。

バイオテクノロジーにおける環境・エネルギー分野の実態や技術開発、バイオ研究職として身につけておきたいマインドセットや視点などについて解説します。

監修者プロフィール

福山篤史氏
日本総合研究所 創発戦略センター コンサルタント「微生物によるバイオプラスチック生産」を対象とした研究開発の経験を活かし、現職では、政府機関・民間企業に対するバイオテクノロジー・バイオマス由来製品の実装に向けた戦略策定支援、カーボンリサイクル/CCU(Carbon Capture and Utilization)技術の実装に向けた産官学連携のコンソーシアムの企画・運営を担当。著書に「図解よくわかる スマート水産業 デジタル技術が切り拓く水産ビジネス(共著)」「図解よくわかる フードテック入門(共著)」(日刊工業新聞社)。
福山篤史氏

環境・エネルギー分野のバイオテクノロジーの実態

環境・エネルギー分野の課題

2024年現在、環境・エネルギー問題は地球規模で取り組むべき課題となり、人類の前に立ちはだかっています。特に地球温暖化の原因とされる温室効果ガスの発生を抑制することが、喫緊の課題です。

温室効果ガスの発生を抑制する方法の1つに、「カーボンニュートラル」という考え方があります。これは、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることで、合計を実質的にゼロにする考え方を意味します。

日本政府も2020年10月に「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、2030年までに温室効果ガスの排出を46%削減し、2050年までに実質ゼロにすることを目標に掲げました。2050年までにカーボンニュートラルを目指す動きは世界各国に広がっています。

このような背景から、現在、カーボンニュートラルに関するバイオテクノロジーの開発技術も注目されています。

各省庁合同で2021年6月に作成された「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」において14の重要分野が挙げられましたが、その中にはバイオテクノロジーと密接な関係がある「カーボンリサイクル・マテリアル産業」も含まれました。

同提言書では、カーボンリサイクル技術の1つとして「バイオものづくり技術」について言及されています。バイオものづくり技術は、ゲノム編集などにより機能を高めた微生物などを用いて、バイオマス資源やCO2を原料としてバイオプラスチックなどの化学品の生産を可能にします。また、従来プラスチックなどの生産は高温下で行われるため、多くの温室効果ガスを排出していましたが、バイオものづくり技術により、常温・常圧の生産が可能になり、省エネルギー効果が期待できます。また、森林や廃棄物に由来するバイオマスから燃料や素材を作る技術の開発・実装が進められており、化石燃料への依存度を下げることも期待されています。

主な就職先は化学メーカーやエネルギー関連企業

環境・エネルギー分野でバイオテクノロジーの活用を研究する職種を目指すなら、主な就職先として化学メーカーに加えて、電力会社、石油会社などのエネルギー関連企業が挙げられます。

バイオテクノロジーを応用し、バイオ由来の原料や製品の開発、バイオ燃料やバイオエネルギーの研究など、環境保全や化石燃料に依存しないエネルギーの研究・開発を行います。

経済団体連合会が2023年3月に発表した提言書「バイオトランスフォーメーション(BX)戦略~BX for Sustainable Future」では、企業の取り組み事例について言及しています。

例えば、旭化成株式会社が開発したバイオエタノールから基礎原料を創出する技術を活用することで、プロセス由来のCO2を削減することが可能です。

また、株式会社ユーグレナでは産業廃棄油などと微細藻類ユーグレナなどのバイオマス資源を活用した、バイオ燃料の開発・製造・販売の取り組みをしています。

このように、バイオテクノロジーを活かした環境に配慮したバイオ製品やバイオ燃料の研究・開発などが行われています。

環境浄化や再生可能エネルギーなどがキーワードに

環境・エネルギーにおけるバイオテクノロジーの活用においては、「バイオマス燃料」「バイオガス」「生分解性ポリマー」「バイオレメディエーション」などが挙げられます。

環境・エネルギーにおけるバイオテクノロジーの活用は、「環境浄化」や「再生可能エネルギー」などのワードと関連する取り組みと言えるでしょう。

例えば、「バイオレメディエーション」では、微生物などの生物の力を利用して、石油タンカーの座礁による原油の除去や、工場跡地の土壌浄化や排水中に溶けている汚染物質の浄化など、環境浄化に関する研究・開発が進められています。

再生可能エネルギーの1つとして注目されている「バイオマス燃料」は、動物・植物に由来する有機性資源を原料としており、有限である化石燃料とは異なり、枯渇しないため持続可能である点、大気中のCO2由来である ため燃焼時にCO2が排出されてもカーボンニュートラル(正味のCO2排出が0)な点が特徴です。

このように、バイオテクノロジーの環境・エネルギー分野での研究・開発は、生物の持つ能力や性質を活用し、人々の暮らしや環境保全のために重要な役割を果たします。

バイオテクノロジー関連の主な技術開発(環境・エネルギー分野編)

環境・エネルギー分野の技術

カーボンニュートラルに根差した脱炭素社会の実現など、環境やエネルギーに関して人類が直面している問題は誰にとっても他人事ではない課題でもあります。課題に対する解決策として期待されているバイオテクノロジーの技術開発がどのように進められているのか、ここでは4つの領域について取り上げます。各領域について概観し、市場規模や成長性についても注目しましょう。

バイオマス燃料

「バイオマス」とは、生物資源(bio)の量(mass)を表す言葉で、「再生可能で、生物由来の有機性資源であり、化石資源を除いたエネルギー源」です。石油や石炭などの化石燃料は採掘し続けることはできませんが、バイオマスは太陽と水と二酸化炭素さえあれば、持続的に生み出されます。

バイオマスも燃焼させれば二酸化炭素を排出しますが、この量は生物の成長過程で光合成により大気中から吸収した二酸化炭素と同程度です。そのため、カーボンニュートラル(正味のCO2排出が0)と捉えることができます。(ただし、バイオマス発電に伴う設備の建設・維持管理、原料の輸送などに伴うCO2排出も考慮して、ライフサイクル全体のCO2排出量を適正に算出・評価することも重要です。)

具体的にはバイオマスは以下に分類されます。

バイオマス

具体的な例としてバイオマス燃料には、バイオマスを薪、チップ、ペレットの形に加工して、ボイラーや発電燃料などに使う「木質バイオマス」があります。

また、バイオマスを発酵、蒸留させて作る「バイオエタノール」や、バイオマスをメタノールと化学反応させて精製される「バイオディーゼル」などの液体燃料もあります。

矢野経済研究所の調査によると、2021年度の日本国内のバイオマスエネルギー市場規模は7,261億円で前年度比8.3%増でした。2035年には1兆7,215億円に拡大する見込みです。

2021年3月に資源エネルギー庁が公表した「エネルギー基本計画の概要」では、2030年度に目指すべき電源構成のうち、バイオマス発電の割合は5%に設定されました。バイオマス発電は2024年現在では、発電効率が悪かったり、安定的調達が不安定だったりするなどの課題が残されているため、今後ますます技術開発の発展・普及が求められるでしょう。

バイオガス

バイオガスは、家畜の排せつ物や食品残さなどを微生物の働きによってメタン発酵させて製造する気体燃料です。バイオマス燃料に含めて分類されることもあります。

日本国内ではバイオガスを燃料として活用した際の発電量はまだ多くないため、地産地消のエネルギーとして活用することが期待されています。

2022年にREPORTOCEANが公表したレポートによると、バイオガスの世界市場は2020年に約529億米ドル(約7兆6,000億円)で、2021~2027年において8.5%以上の健全な成長を遂げ、2027年には936.4億米ドル(約13兆3,000億円)に達すると予測されています。

バイオマス燃料と同様、安定供給に課題があるとされていますが、地産地消型のバイオガスを用いたエネルギー供給システムに注目されています。

地域資源を持続的に活用することで、カーボンニュートラルだけでなく、地域レジリエンス(災害などに対する強靱性)の強化や地域経済の活性化にもつながることが期待されます。

生分解性ポリマー

バイオマスプラスチックのうち、土中で自然に分解して土に還るタイプの化学化合物が生分解性ポリマーです。

生分解性ポリマーは、SDGsの1つに設定されている「海の豊かさを守ろう」にも関係し、「海洋ごみ」となっている「マイクロプラスチック問題」の解決にもつながる可能性も秘めています。

2004年のサイエンス誌に 「Lost at Sea: Where Is All the Plastic?」 というタイトルの論文が発表されて以降、「マイクロプラスチック」という言葉が頻繁に使用されるようになり、生態系への影響に関する調査・研究が拡大しました。

生分解されないマイクロプラスチックが海流に乗って世界中の海に拡散されて海洋汚染されると同時に、魚が食べてしまうことで海洋生物や人体に悪影響を及ぼすことが懸念されています。

生分解性ポリマーは海水や土壌に存在する微生物により分解され、最終的には炭酸ガスと水になるポリマー(高分子化合物)です。プラスチックの代わりに生分解性ポリマーを代用することで、地球環境保全に貢献する可能性を秘めています。生分解性ポリマーにもさまざまな種類があり、海水中・土壌中ともに分解されるもの、土壌中のみで分解されるものなど、種類ごとに特性が異なります。そのため、海洋中のマイクロプラスチック問題を解決するためには、海洋中でも分解される特性を持ったものを選択するなど、特性を捉えた適切な対応が必要です。

株式会社グローバルインフォメーションの調査によると、生分解性ポリマーの世界市場は2022年に約408億1,000万ドル(約5兆8,000億円)とされ、2030年には769億6,000万ドル(約11兆円)規模に達すると予測されています。

生活のあらゆる場面で用いられているプラスチックをすべて生分解性ポリマーに変える必要はなく、使用場面や用途に応じて従来のプラスチックとすみ分けて使用することが大切です。

生分解性ポリマーは、原料に関わる領域であるために社会に与えるインパクトは非常に大きいと言えるでしょう。

バイオレメディエーション

バイオレメディエーションとは、微生物や植物などの生物が保有する化学物質の分解能力、蓄積能力を利用して土壌や地下水などの汚染浄化を図る技術です。自然界に存在する汚染物質を分解する微生物を活用して、浄化を促進します。

バイオレメディエーションにはいくつかの技術があり、以下に分類されます。

バイオレメディエーション

2005年には経済産業省と環境省が共同で「微生物によるバイオレメディエーション利用指針」を策定しました。難分解性化学物質の汚染に対して浄化を行う点で、「バイオオーグメンテーション」が特に注目されています。

株式会社グローバルインフォメーションの調査によると、バイオレメディエーション技術・サービスの市場は2021年の119億米ドル(約1兆7,800億円)で、CAGRは8.4%で健全な成長を遂げ、2028年には209億5,000万米ドル(約3兆300億円)に達すると予測されています。

バイオレメディエーションによる浄化は、低コストや広範囲の汚染の浄化などが可能な一方、浄化に時間がかかることなどが挙げられます。

2024年時点では、一般的に使用される技術までには至っていませんが、日々研究は進んでおり今後の動向に注目です。

バイオテクノロジーの発展による環境・エネルギー分野への影響

環境・エネルギー分野への影響

環境・エネルギー分野でもバイオテクノロジーを駆使して、サステナブルな経済成長に貢献することが期待されます。気候変動やカーボンニュートラルの取り組みは世界共通の課題であり、それらは私たちが毎日使う日用品やエネルギーに直結しています。

人類の今後を見据えることで、研究もより自分事として捉えられるようになるでしょう。

SDGsなど地球規模の取り組みへの貢献

2015年9月に国連でSDGsが採択されるなど、国や行政、企業レベルではなく、私たち一人ひとりが環境保全について考えるようになってきた中、バイオ研究職として地球規模の課題に積極的に取り組めるのは大きな魅力です。

環境・エネルギー分野のバイオテクノロジーは、SDGsの17項目の目標の中でも「13 気候変動に具体的な対策を」「14 海の豊かさを守ろう」「15 陸の豊かさも守ろう」など多くの目標に貢献できます。

社会的意義が大きい仕事に携われていることは誇りにもつながるでしょう。

地球規模の出来事を他人事から自分事の視点へ<h3>

環境・エネルギー分野のバイオテクノロジーの研究に携わる上では、地球規模の課題を他人事ではなく、自分事として捉えてコミットすることが大切です。

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告書では、温室効果ガス排出量の抜本的かつ持続的な削減が必要と警鐘をならしています。

このまま気温上昇が続いた場合には、内陸洪水による大都市部の住民の健康障害や生計崩壊のリスク、屋外労働者の極端な暑熱期間における死亡や罹病のリスク、干ばつ、洪水などによる食料不足や食料システム崩壊のリスクなど、さまざまな問題が発生すると指摘されています。

人類の喫緊の課題となっている、地球温暖化の原因とされる温室効果ガスの発生の抑制は地球の将来に関わる重要な取り組みです。

毎日の研究は地道なものですが、その研究1つ1つを行っている目的や意義を考えるなら、熱意を失うことはないはずです。

人類が存続する限り考えていくべきテーマと向き合う

バイオテクノロジーは、今後、現在の地球規模の課題解決に貢献する可能性を秘めています。

その一方で、世界人口増加にともなうゴミ増加による環境汚染をはじめとした、将来予想される環境問題が挙げられています。

さらに、現在挙げられている将来の課題とは別に、新たな危機や環境問題の解決も必要とされるでしょう。

その観点から考えると、環境やエネルギーを意識したバイオテクノロジーの進化は、人類の長期的な存続に向けたテーマとも言えます。

まとめ~地球規模の課題に自らコミットする姿勢が重要

【バイオ 環境 エネルギー のまとめ】
・主な就職先は化学メーカーやエネルギー関連企業
・バイオマス燃料、バイオガスなど4つの領域に注目
・安定調達・供給を可能にする技術の発展・普及が、今後ますます求められる

バイオテクノロジーにより、人々が使う素材やエネルギーに直接関わり、社会に大きなインパクトを与えられるのは環境・エネルギー分野のバイオ研究職の醍醐味(だいごみ)でしょう。環境・エネルギー分野のバイオテクノロジーの活用は「バイオマス燃料」「バイオガス」「生分解性ポリマー」「バイオレメディエーション」などがありますが、人類の暮らしや環境保全を考える上では今後も成長が期待される領域です。

バイオ由来の原料や製品の開発、バイオ燃料の研究などは、今後も人類が安泰に暮らす上で重要な位置づけとなります。環境・エネルギー分野のバイオテクノロジーの活用に取り組む研究者は、地球規模の課題の解決につながる重要な研究に取り組んでいると意識することで、自身の研究のやりがいにもつながるでしょう。

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