アカデミアとは?バイオ研究職が知っておくべき企業研究職との違いやメリット

バイオ系の研究職に就職をする場合、大きく分けて二つの道が存在します。一つが民間企業での研究職、そしてもう一つがアカデミアへの就職です。民間企業に就職して実務経験を積んできた方の中には、自身の対応する業務範囲が狭いため、業務領域の拡大を視野に転職を考えるケースも少なくありません。その際、次の就職先としてアカデミアも選択肢の一つになるでしょう。

しかし、これまで民間企業で働いていた方の中には、アカデミアでの働き方についてよく分からない方も多くいるかもしれません。バイオ系研究職の就職先として両者はよく比較されますが、実際はどのような点が異なるのでしょうか。それぞれの実態をよく知った上で、自分の働き方に合った進路先を選ぶことが重要です。

これまで民間企業で働いてきた方がアカデミアを就職先の選択肢の一つにできるよう、民間企業とアカデミアでの働き方の違いについて解説します。

監修者プロフィール

福山篤史氏
日本総合研究所 創発戦略センター コンサルタント「微生物によるバイオプラスチック生産」を対象とした研究開発の経験を活かし、現職では、政府機関・民間企業に対するバイオテクノロジー・バイオマス由来製品の実装に向けた戦略策定支援、カーボンリサイクル/CCU(Carbon Capture and Utilization)技術の実装に向けた産官学連携のコンソーシアムの企画・運営を担当。著書に「図解よくわかる スマート水産業 デジタル技術が切り拓く水産ビジネス(共著)」「図解よくわかる フードテック入門(共著)」(日刊工業新聞社)。
福山篤史氏

アカデミアとは?

アカデミアとは、大学や公的研究機関での研究職を指します。非営利団体であり、公的研究機関としてよく知られている組織には、理化学研究所や産業技術研究所などがあります。物質・材料研究機構などの国立研究開発法人や、県立工業技術センターなどの公設試験研究機関なども、アカデミアに分類されます。

アカデミアと民間企業の研究職は、バイオ系研究者が働く就職先としてよく比較されます。一方、両者は取り組む仕事内容が全く異なるというわけではなく、共通点もあります。アカデミアとして民間企業寄りの研究をしている大学や機関もあれば、その反対も然りです。近年では産学連携、産学官連携が活発化しており、アカデミアと民間企業が共同でプロジェクトに取り組むこともあります。

単に「アカデミアか民間企業か」という二項対立ではなく、それぞれの実態をよく理解した上で自身の適性や目標などと比較し、個々人に合った就職先を見極めていく姿勢が重要です。

アカデミアと企業研究職との違い

民間企業とアカデミアの最たる違いは、前者が営利団体、後者が非営利団体である点です。

民間企業は新たなサービスや新商品を出すことによる利益創出活動が主目的となります。一方、アカデミアでは短期的な利益ではなく、学術的に意義のある研究が重視される傾向にあります。

「民間企業は応用研究、アカデミアでは基礎研究が主流」という大まかな分類で考えるとより分かりやすいでしょう。

研究現場

研究の自由度の違い

民間企業での研究とアカデミアは営利団体か否かという点で、研究方針や予算、期間なども大きく異なります。さらに、研究の自由度や労働環境などにも両者の違いが反映されます。

営利団体である民間企業では研究成果で利益を出し、会社として成長することが不可欠です。製品価値や投資価値を生むためには、短期間のうちに応用研究で成果を出さなければなりません。そのため、「将来的に役立つ研究」ではなく、「世の中が今、求めている製品」を開発します。民間企業は、利益や成果に基づく研究を追い求める点が特徴です。

スピードと成果重視の民間企業の研究は、人件費に予算を割き、一つの研究に対して複数の研究者が携わります。そのため、各研究者が扱う範囲が分業化されているケースも大半です。個人の研究の自由度としては、アカデミアと比較すると狭くなる可能性が高いでしょう。

非営利団体であるアカデミアでは、短期的な成果が見えにくい学術研究がメインになります。国や行政などへ予算繰りの稟議を通すことや、長期的な支援にこぎつけるだけでも容易ではありません。アカデミアでも、研究に関する多額の予算を確保できる成果を上げているのは、一握りというのが実態です。

一方、民間企業での研究と異なり利益を優先しない分、研究価値があるとみなされるテーマであれば、時間をかけて自分が納得のいくまで研究することが可能です。また、予算が限定的になりがちなアカデミアでの研究は、一つの研究に対して一人ということも少なくありません。アカデミアで研究する上では、自分主体で研究を進める必要があります。

アカデミアでは研究にかける予算は限られています。しかし、民間企業と比較した場合、研究者個人の研究の自由度は高いと言えるでしょう。

労働環境の違い

民間企業での研究とアカデミアでは、雇用状況の実態が異なります。

民間企業で研究する場合、正社員として無期契約で雇用されるのが一般的ですが、アカデミアでは有期雇用のケースが大半です。なぜなら、アカデミアで民間企業の正社員のような無期雇用を希望する場合は、教授などある程度のポストに到達する必要があるからです。

また、アカデミアの就職においては「雇い止め」について度々報道されています。ネガティブな発信として受け取られがちですが、研究者の無期雇用化へ方針転換する機関も出てきており、今後も動向を注視するとよいでしょう。

雇用期間を更新せずに契約を終了させるアカデミアが増えたのは、2013年に成立した改正労働契約法の「無期転換ルール」が要因です。法改正により、有期雇用で5年以上、研究者は特例で10年以上の任期付きの非正規雇用として働いた場合、無期雇用に転換可能になりました。

本来は、有期雇用の労働者の経済的地位を安定させるために定められたルールです。しかし実際には、無期転換が可能となる前に「雇い止め」を選択するアカデミアが少なくなかったのも事実です。期待した効果とは正反対の事態が生じています。

「雇い止め」をすることで、長年続けてきた研究の打ち切りや、優秀な人材の海外流出などが起こります。大学側にとっても不利益が生じますが、それでも「雇い止め」をせざるを得ない事情も把握する必要があるでしょう。それは、すぐに成果を出すのが難しい学術研究をメインとするアカデミアでは、予算の確保が難しいからです。国からの研究資金も、競争を促すためにプロジェクトごとに支給されるケースも少なくありません。長期的な人件費の確保が見込めないため、無期雇用への変更が難しいのが実情です。

これら実情を理解した上で、自身が目指す道を見極めることが重要でしょう。

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それぞれのメリット・デメリット

アカデミアや民間企業で研究を行うにあたって、それぞれのメリット・デメリットを紹介します。

メリット・デメリット

アカデミアに行くメリット・デメリット

【メリット】
・研究テーマの自由度が高い
・自分のペースで研究に取り組める
・専門家との意見交換がしやすい環境がある

【デメリット】
・主体的に研究費用を獲得する必要がある
・研究期間が長期化しやすい
・雇用形態が不安定なことが多い

アカデミアに行くメリット

アカデミアの特徴は、研究テーマを設定する際の自由度が高い点です。利益に直接結びつかないような研究でも価値があるとみなされる場合、突き詰めて研究することが許される環境にあります。

また、アカデミアは、共同研究などでなければ一つの研究を一人で進めることが大半です。そのため、自分のペースで進行しやすいと言えるでしょう。

アカデミアでは、学会発表や論文投稿などの形で研究成果を発表する機会が多くあり、学内外の研究者と意見交換しやすいのも特徴です。民間企業の場合、知的財産の関係で研究発表をしにくいケースがあるので、研究テーマに関して専門家と活発に意見交換したい研究者にとっては大きなメリットとなるでしょう。

アカデミアに行くデメリット

アカデミアでのデメリットとして、研究費用を自身で獲得する必要がある点が挙げられます。アカデミアでは予算が限定的になりがちなため、補助金や助成金の申請を自ら行うなどして主体的に研究費用を確保する必要があります。

また、研究期間が長期化しやすいのも特徴です。短期的な成果が見えにくい学術研究がメインとなるため、成果が出るまでに数十年単位で時間がかかる研究も存在します。さらに、一人で研究することが多いため、複数人で作業を分担するより時間がかかる傾向も。アカデミアでは自身でモチベーションを保ち、成果がでるまで根気よく続ける姿勢が求められます。

アカデミアでの雇用形態は有期雇用が大半であり、さらに「雇い止め」などの問題が存在するため、民間企業と比較して経済的安定は得にくいと言えます。不安定な雇用形態で長期間研究を続けることをプレッシャーに感じる研究者も少なくありません。

民間企業に行くメリット・デメリット

【メリット】
・雇用形態が安定している
・研究予算が豊富
・研究成果が出るまでの期間が短い傾向にある

【デメリット】
・研究テーマを会社の方針に合わせる必要がある
・研究の成果が出る前に中止や異動になる可能性がある

民間企業に行くメリット

民間企業で研究する大きなメリットの一つに、安定した雇用形態が挙げられます。無期雇用の正社員で雇用されやすいのに加え、福利厚生などの恩恵を享受しやすい点が特徴です。

民間企業での研究は基本的に利益目的で行われるため、研究予算の確保や設備導入などへの会社からの「投資」は積極的に行われる傾向があります。最新の設備などが整った環境で研究できるのも、民間企業で研究する特徴でしょう。

また、利益を創出するには応用研究で短期間のうちに成果を出す必要があります。そのため、民間企業で研究する場合には短期間で利益や成果が出やすいと言えるでしょう。

民間企業に行くデメリット

民間企業での研究テーマは会社の方針によって決まることが大半です。そのため、自身の関心がないテーマで研究する可能性も大いにあります。

また、一生懸命取り組んでいた研究であっても、利益が出にくい場合には成果が出る前に中止になる可能性があるのも民間企業研究の特徴です。

さらに、研究の途中で異動になる可能性もあるため、アカデミアでの研究のように一つのテーマを追求することは難しいと言えるでしょう。

適性はアカデミア?それとも民間企業?

研究をする男性

アカデミアと民間企業では特徴が異なります。自身の性質や研究スタイルを踏まえて選択すれば、ミスマッチの防止にもつながります。アカデミアと民間企業のそれぞれに適したタイプを知り、進路選択のヒントにしましょう。

アカデミアに向いているタイプ

研究者としてアカデミアに向いているのは、学問の発展を目指したいという知的好奇心の高い人です。

研究者であれば誰しも知的好奇心を持ち合わせていますが、アカデミアでは「すぐに役立つこと」よりも「今すぐには役立たないとしても学問的に価値があること」が重視されるため、知的好奇心が学問的な探求に志向している方のほうが馴染みやすいでしょう。

アカデミアは公的研究機関であるため、論文を世の中に出すことも大きな役割の一つです。そのため、営利目的ではなく「人類の英知の結集を目指す」「未知の領域で研究成果を出す」という志を抱くタイプの人は、アカデミアがマッチする可能性が高いでしょう。

もっとも、基礎研究は応用研究につながり、長い時間をかけていつの日か社会を大きく変革するポテンシャルを秘めています。長期的な視点から世界や社会の未来を見据える研究者によって、アカデミアの地道な研究は支えられていると言えます。

民間企業の研究職に向いているタイプ

研究者として民間企業に向いているのは、スピーディーに自分の研究成果を出したいというマインドの持ち主です。

民間企業は応用研究で開発した製品をできるだけ早く発売し、より多くの消費者に購入、使ってもらうことで売上を伸ばします。その目的実現のためにも、研究予算を投下し、アカデミアよりも優れた研究設備を導入している企業もあります。

例えば、アカデミアでは時間をかけ、一つひとつ研究者の手で行う作業や実験も、民間企業では多くの予算を投資することで、環境を充実させて効率化を図れるケースも珍しくありません。アカデミアと比較し、研究スピードは2倍、3倍になることもあります。

応用研究で市場のニーズに合った製品開発にチャレンジし、成果を出していきたいという方には民間企業の研究職が向いているでしょう。

アカデミア・民間企業間での転職について

研究をする人

自分の研究スタイルや実績、経験などを踏まえ、民間企業での研究かアカデミアのどちらに適性があるかを見極めることは大切です。特に、研究内容やこれまでの成果が、次のキャリア選択において最も重視される点を押さえておきましょう。

また、一度民間企業に就職してもアカデミアへの転職が不可能というわけではありません。ただし、一般的にアカデミアと民間企業間のキャリアの流動性は高くありません。

このような状況の中、民間企業・アカデミア間での転職では、どちらかといえばアカデミアから民間企業への転職の方が多い傾向にあります。一方で、民間企業からアカデミアへの転職事例は存在しており、適切な経験や実績があればキャリアパスとして十分実現可能です。

民間企業での経験を歓迎しているアカデミア例

・国立研究開発法人理化学研究所

理化学研究所は「日本で唯一の自然科学の総合研究所」として、計算科学、生物学、医科学などの幅広い分野の研究に取り組んでいます。

理化学研究所の最先端研究プラットフォーム連携(TRIP)事業本部 創薬・医療技術基盤プログラムの採用情報ではマネージャーを募集しており、応募資格の一つとして民間企業での経験が記載されています。以下に募集内容の一部を紹介します。

■職務内容
1.創薬テーマ及びプロジェクトの探索ならびに育成等について、プログラムディレクターの指示のもと推進する。 (業務の詳細は省略)
2.DMP事業開発室、理研の連携促進本部、理研イノベーションの関係者と連携して、研究成果の社会実装に関する業務を推進する。 (業務の詳細は省略)
契約期間中または契約更新時に業務変更がある場合は、上記職務内容の範囲で行います。

■応募資格
・博⼠号取得者
・上記の職務内容に意欲的に取り組める者
・薬理・⽣化学・生物学に関する⼗分な知識を有すること
・製薬企業の創薬関連研究所のマネジメント職の経験を持つことが望ましい

出典:理化学研究所「マネージャー募集(Y24078)

アカデミアでの研究経験を歓迎している民間企業例

・タカラバイオ株式会社

タカラバイオ株式会社では、遺伝子治療や細胞医療の研究開発で培った技術・ノウハウを活用し、遺伝子・細胞プロセッシングセンターを中核拠点とした再生医療等製品などの開発・製造支援サービスであるCDMO事業を拡大しています。

研究支援(遺伝子解析業務)のキャリア採用ではアカデミアでの研究経験を歓迎しており、以下の募集をしています。

■業務内容
最先端の次世代シーケンサーやマイクロアレイ等を使用し、遺伝子解析や新規解析法の開発、遺伝子検査が主な業務

■求める経験
・次世代シーケンサー解析(サンプル調製から次世代シーケンサー解析)担当
次世代シーケンサーを用いた事のある方は歓迎いたします。

・バイオインフォマティクス担当
大学・大学院での研究者も歓迎いたします。

出典:タカラバイオ「キャリア採用

アカデミアか民間企業かの選択は目的意識による

「アカデミア」「民間企業」の違いに関するまとめ
・民間企業は営利団体、アカデミアは非営利団体という違いがある
・民間企業での研究とアカデミアとでは適した人材像が異なる
・アカデミアから民間企業への転職も、経験や実績次第で実現できる可能性がある

バイオ系研究職における転職先に迷う場合は、民間企業は営利団体、アカデミアは非営利団体という違いを意識した上で、自身の目指したい方向性を明確にすることが重要です。

民間企業での研究は自分の研究・開発が社会実装され、スピーディーに成果を出したい人に向いています。それに対し、アカデミアは、自分の研究がすぐに実用化されなくても、学問的に価値があれば知的好奇心を持って研究し続けたいという人におすすめできます。

自分が研究によって何を成し遂げたいのか、明確な目的意識を持っていれば、これまでのキャリアを活かした民間企業・アカデミア間での転職というキャリアパスも描けるでしょう。

「民間企業かアカデミア」という軸を持ちつつ、それぞれの特徴や自分の適性を知ることで、就職や転職のミスマッチは減らせます。豊富な情報を持ち、たくさんの事例を把握しているエージェントの活用も一つの方法となるでしょう。

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